プレゼント








〜 常盤 柊 & 土浦 冥 〜

「明日は水波さんのお誕生日だそうです」
自室で帰宅後の日課となっている書類の確認をしながら、柊は近くで何かを調合している冥に話しかけた。
「ふぅん、じゃあ柊と同じ歳になるんだ?それにしては見た目も中身もガキっぽいよねぇ〜」
生意気な事を言ってるが悪意はない。
どちらかというと声に親しみが込められているように聞こえる。
珍しい、と柊は思う。
冥は大して人に興味を抱かない。
粋が自分と同じ年齢だという事を覚えていた事もだが、「見た目も中身もガキっぽい」などという評価までしているのだから驚きが大きい。



「それは水波さんが見た目も中身も可愛い女の子だからですよ。私は年齢よりも上に見られてしまうので、水波さんが羨ましいです」
「水波なんかより柊の方が可愛いよ!ずっとずっと可愛い!!」
調合をする手を止め、一生懸命訴える冥。
その子犬のような眼差しに心が動かない女子はいない・・・・・柊も例外ではなく。
「ありがとうございます、でも、一般的には可愛い女の子というのは水波さんのような人の事なのですから、余所で言ってはいけませんよ?」
眼鏡を外して微笑む顔は、年齢相応の可憐な少女。


(やっぱり柊が一番可愛い!!)


「うん、柊が言うならそうするっ!」
「はい、そうして下さい。ところでお仕事の方は終わりそうですか?」
「あと少しで終わるよ。他に何か調合するものがある?」
コクリと頷くと柊はサラサラと何種類かの植物の名前を紙に書き、冥に渡した。
「・・・・・・フレーバーティ?水波にあげるの?」
紙に書いてある植物はベリー系のフレーバーティの材料。
材料しか書いていないが、誰のための物か分かっているというのだから、やはり冥は粋に対して好意的であるのは確かなようだ。



「ええ、どうでしょう」
「いいんじゃない、水波って何かイチゴっぽいし。じゃ、直ぐにこっちの仕事終わらせて取りかかるから」
「お願いします、私は包装の準備をしておきますね。水波さんに喜んで頂けるといいですね」
「当ったり前じゃん、僕達が用意してやるんだもん。それに・・・・・人の込めた気持ちに気づかない程ニブい奴じゃないよ、絶対」









〜 安積 政人 & 霧島 穂高 〜

「明日〜水波さんの〜誕生日なんだって〜」
「そう・・・・・らしいね・・・・・」
桜組の午後の授業は『特別講習』。
各自が持つ能力によってその内容も異なる為、実際は自由時間になっている。
安積と霧島は校舎裏で数匹の猫と日向ぼっこをしていた。



「僕達の〜誕生日の〜真ん中だね〜」
「ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当だ」
霧島は12月25日、安積は2月22日が誕生日。
数えてみると1月23日はその真ん中の日になる。
「偶然だねぇ〜?」
「うん・・・・・」



安積は動物との会話の時は饒舌な方だが(・・・といっても一般人には何を言っているのか分からない)、人との会話は苦手だ。
霧島は別に話すのは苦手ではないが、その間のびした特徴的な話し方に聞いている方がイライラしてしまい会話が長続きしない。
そういうわけで2人は沈黙状態に慣れているし、そういう状態に陥る場合が多い。
特に用事がなければ何時間だろうと2人で居るにも関わらず黙っている時だってある。
寧ろ3回以上の会話のやり取りがある方が珍しい。
今回はその珍しいケースだった。



「水波さんって〜不思議だよね〜」
「不思議・・・・・うん・・・・・不思議だ・・・・・」
「傍に居ると〜お母さんを〜思い出すのに〜嫌じゃない〜」
「・・・・・・・」
霧島は小学3年生の時に安積の家に引き取られた。
未来を予感するという能力を、母親が気味悪がり最終的に心を壊しかけてしまったのがその理由だ。
霧島が母親を思い出すのが嫌なのは、母親を廃人寸前にまで追いつめてしまった自分をずっと心の中で責め続けているから。
穂高の口から「お母さん」という単語が出てきたのは何年ぶりだろう、と思いながら安積は膝の上にすり寄ってきた猫の背中を撫でた。



「ねぇ、政人〜。動物さんにも〜明日の事〜教えてあげた方が〜いいんじゃない〜?」
「そうかな・・・・・じゃあ・・・・・話してみる・・・・・」
ボソボソと何の言葉だかよく分からない言葉を発すると、2人の周りに居た猫達がニャーニャーと騒ぎ始め数匹がその場から離れていった。
「どうしたの〜?」
「お祝い・・・・・伝えて欲しいって・・・・・他の子にも・・・・・声かけてくるって・・・・・」
「そうかぁ〜だったら〜画用紙とか持ってくるよ〜。足印とか〜押してもらえるでしょ〜?あぁ〜デジカメもあった方が〜いいよねぇ〜」
のっそりと立ち上がると、霧島は校舎へ向かって歩いていった。



「穂高・・・・・」
「なぁに〜?」
「・・・・・ごめん・・・・・何でも・・・・・ない・・・・・」
「ん〜」
霧島の姿が校舎の中に消えるのを見てから、安積は小さく笑った。
「本当に・・・・・水波さんは・・・・・不思議だ・・・・・」



彼女に関わることで穂高の心の中に張り付いている暗い気持ちが少し和らいでいるような気がする、と安積は思う。
今までの霧島は頼まれた事はやるが、自分から何かする事はなるべく避けるようにしていた。
それは、幼い頃に母親に喜んで貰おうと未来を見て、結果、母親の心を壊してしまったのがトラウマになっているからだ。
その霧島が、今は自分から動いた。
全然大した事ではないが、安積にとっては赤飯を炊いてもいい位の出来事だったのだ。



「ニャー」
「あ・・・・・そっか・・・・・鳥たちにも・・・・・話しておかないと・・・・・」
冬の澄んだ空に向って安積は言葉を投げかけた。









〜 当麻 和泉 & 九重 達弥 〜

午後の特別講習の時間を使って粋の誕生日プレゼントを考えようと、開いたノートを目の前に置いて並んで座る和泉と達弥。
「水波ちゃんって何が好きなのかなぁ?」
「そー言われてもなぁ・・・・・女の子の好みなんて和泉のくらいしか分からんしなぁ・・・・・」
「あ、いや、うん、そーだよねー。達弥が女の子の好みなんて分かるわけないよねー」
嬉しそうに笑いながらぐりぐりとノートに無意味な円を書く和泉と、そんな様子を可愛いなぁと見守る達弥。
2人で居る時は完全にバカップル全開である。



「可愛いものは絶対好きだと思うけど、ウチらってそういうのは作ったことないもんね・・・」
「作る機会がなかったしなぁ。でも、いずれは作ることになるんやろし、やってみよか?」
「いずれは・・・・・ね」
何故か照れる和泉とそんな様子を(以下略)。
数年に渡って積もり積もったラブなパワーが大爆発である。



「なぁなぁ、みなみちゃんって暗い所があかんっちゅっとったよな?」
「うん、クリスマス会で倒れた理由って会場が真っ暗になったせいだったらしいし・・・」
何とも言えない具合の悪い表情になる2人。
彼らにとって忘れられないクリスマス会は、詳しい事は分からないが彼らの親友にとっても何かよくない事で忘れられないものになってしまったらしい。



「・・・・・暗い所があかんっちゅー事は、逆に明かりは安心するから好きなんちゃうかな?」
雰囲気が悪くなる前に話を戻す。
達弥は女の子の微妙な心情が分からなくてデリカシーが無くてニブくてお子様・・・・・と散々言われているが、実は空気を読む努力をする繊細な部分を持っているのだ。
「明かり・・・・・かぁ。香りがする明かり・・・・・?」
ぼんやりと頭の中にイメージを浮かべる。
柔らかい、暖かい明かり。
部屋の中に灯る光。



「「アロマキャンドル!!」」



2人で同時に口に出してニカッと笑う。
「それや!」
「それだ!」
サラサラと浮かんだイメージを和泉がノートに描いていく。
ガラスの器の中に咲く花。
1つはオレンジをベースにした室内用。
もう1つは青をベースにしたバス用。



「安全のためにも少し深さを持たせた方がええな」
「そっか、これ位でいい?」
「バッチリ。あー、こんくらいの深さがあったら器の裏から絵入れたりも出来るなぁ、何かやろか?」
「やろうやろう!!ちょっと待っててね、今、まさに今、超考えるから!!」
何かを作る時には和泉が大枠を作り、達弥がチェックをし、2人で一緒に仕上げていく。
そうやって1つの物を完成させていく度に2人はお互いを「最高のパートナーだ!」と実感するのだった。



「ほんじゃ、早速始めますか」
「りょーかい。直ぐに調香してくるね」
調香は別の隔離された教室で行う。
和泉が立ちあがると達弥はキュっとその細い手首をつかんだ。
「なぁ」
「ん?」
「夢じゃのうて、絶対、将来一緒に店やろな?こうやって誰かに喜んで貰える物を、1から考えて作ってこうな?」
幼馴染3人組の秘密。
2人が持ち続けた未来の夢。
「あったり前じゃん、夢は叶える為にあるんだもん!今はこのプレゼントにウチらの夢の欠片を詰め込もう、ね?」









〜 帝 美久 〜

『この人に美味しいって笑顔になって貰いたい、幸せになって貰いたい、楽しい気分になって貰いたい。そう思うとレシピが私の中から溢れるように出てくるんだ』
『それが、お姉ちゃんなの?』
『そうだね、私にとっては花梨さんだ』
小さい頃、僕は三門和美さんという人に料理を教えてもらっていた。
和美さんは僕の前にミカドの後継者として将来を有望されていた人で、姉さんの婚約者だった。



『僕には・・・・・よく分からないな』
『今は分からないかもしれないけれど、ミクもいつかそうなるよ』
『いつかって、いつ?』
ペンを置いて、和美さんは悪戯っ子のように笑って言った。
『明日かもしれないし10年後かもしれない。世界が素敵に変わるんだ、それはとても幸せな事なんだよ』



和美さんは才能があって地位もあるのに全然威張ってなくて、子供の僕達にも対等に接してくれた。
優しくて大らかで、でも間違っている事にはちゃんと叱ってくれる人だった。
そんな和美さんが22歳という若さで亡くなったのは4年前。
結婚式の3ヶ月前、フランスでの生活準備をしている最中の不慮の事故だった。



知らせを受けた姉さんは酷いショックで食べ物を受け付けなくなって入院をし、僕は引きこもりになった。
当時の記憶は最低最悪だ。
学校でのいじめは僕だけが我慢すればいいと思ってたけど、クラスの皆に・・・特に和泉と達弥に悔しい顔をさせている自分が情けなかった。
大好きな料理も和美さんを思い出してしまって作れなくなってしまった。
何もしたくない、何も考えたくない、誰にも会いたくない。
和美さんが亡くなった2週間後、お別れ会の日に僕は・・・・・僕の人生を終わらせようと思っていた。



『どうしたの?』
お別れ会の会場を離れてフラフラと歩いていた僕に声をかけてくれた藍玉の瞳の女の子は、僕のうわ言のような言葉を聞くと目を閉じて僕の手を握って歌い始めた。
今まで聞いたことがない、綺麗な綺麗な歌声だった。
『あのね、アナタの大事な人はずっとアナタの心の中で生き続けるんだよ。ずっとずっと一緒に居るんだよ。だからね、もう居ないなんて言っちゃだめなんだよ。アナタは、アナタの大事な人と生きているんだから』
歌が終わると女の子はそう言って微笑んだ。
ふわぁっと風が女の子の薄茶の柔らかい髪を揺らし、光が彼女の中から溢れてくるように見えた。


天使。
そう、彼女はまるで天使のようだった。


その後、僕は家の関係者に連れて行かれてしまって彼女が一体何者だったのか分からなかったのだけど、僕は彼女の歌と言葉に救われて、そして・・・・・
そして、僕は初めて恋をした。




※ ※ ※ ※ ※ ※





「イチゴは外せないなぁ・・・・・うん、他の料理も沢山食べて欲しいからシフォンケーキにしよう!だったら品種は・・・・・」
レシピブックにどんどん書き込んでいく。
スイちゃんはこんな味が好きじゃないかな?
こんな料理を食べたいんじゃないかな?
そうだ!



「このレシピブックもあげよう」
スイちゃんは料理をするのも好きだから、きっと自分でも作ってみたいって思うもの。
机の引き出しから新しいレシピブックを取り出して、明日作るレシピを書き写していく。
喜んでくれるかな、喜んで欲しいな。
そう思いながら書き続け、一段落ついた所でペンを置いて胸に手を当て目を閉じる。



和美さん、僕にも「いつか」の時が来たんだよ。
世界が変わった。
とても素敵で、綺麗に見えるよ。


僕の好きな人は、僕とは違う人が好きだけど・・・・・
だけどね、和美さん、僕は幸せなんだよ。
僕の料理を食べて美味しいねって笑ってくれたら、それだけで本当に幸せなんだ。
だから1つでも多く笑顔をもたらす料理を生み出していきたい。
これからも、ずっと。













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