昔話・東雲夫妻編 その1



「私は君のことが好きだ。愛してるという意味で」
13歳の誕生日、「僕」は愛の告白のようなものを受けた。
1つ年上のノーマルだと思っていた男に・・・










流行り病で母さんが急死したのが11歳の冬。
その1年後、父さんの居る日本へと移住し、父さんの友人が理事長をしている学校の中等部に入学した。
「彼」にはそこで出会った。



彼の名前は東雲 皇。
学力に秀で、本来ならば中等部2年の年齢であるのにも関わらずスキップで高等部2年に編入。
穏やかな笑顔を絶やさず、人当りがよく、整った顔立ち。
一見優男だが剣道は有段者で一般スポーツも不得意なものはない。
そして、理事長の実子であり東雲グループの次期トップと指名されている。
・・・・・・・とまぁ、完璧超人なわけで。



彼の噂は耳を塞いでいても入ってくる。
最新ニュースは「皇さまは今年の体育祭は『かりもの競争』に出場するらしい」だそうだ。
・・・・・だから何だって思う僕の方が少数派なのは如何なものか。



「かりもの競争って何?」
「あぁ、西神は途中編入だったっけ?借り者競争っていうのは、指定された条件の人を連れてゴールするって競技なんだけど、そこで一緒にゴールした男女はカップルになるってジンクスがあるんだよ」
「ふーん」
だから女子達はドキドキそわそわしているわけか。
可愛いなぁ。



女の子は皆、可愛い。
恋してキラキラしてる女の子は本当に可愛い。
あぁ〜可愛い。
皆にメイクしたい・・・



「西神は体育祭は何にも出場しないんだって?」
「ドクターストップがかかってるんだ。大人しく見学してマース」
「あー、お大事にな」
「ありがと」
友人にひらひらと手を振って教室を出る。
今日は理事長室に呼ばれてたんだよね。
仕事の依頼かな?





「失礼しマース」
「空くんか、どうぞ、椅子に座って」
理事長こと東雲 真朱さん。
父さんの友人・・・なんだけど、父さんと全然タイプが違う。
僕の父さんは超美人でおっとりしてて病弱なせいか線が細いんだけど、
真朱さんはダンディな紳士だけど周りを圧倒して引っ張っていく雰囲気を持っている。
何処でどうやって友人になったのやら。


「美味しいケーキを頂いたんだ。好きなだけ食べていって」
「わぁ!ありがとうございます!!」
遠慮なく目の前に置かれたケーキの1つに手をつける。
チョコレートのシフォン。
ふわふわでおいしー!!


2つ3つとモグモグ食べていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ようやく来たか」
「失礼します」
誰かが部屋に入ってきた。
ちょうど僕が4つ目のケーキに手を伸ばしたその時に・・・。


「空くん、紹介が遅れたけれど」
「東雲 皇です、はじめまして」
「はい、はじめまして・・・」
握手に伸ばされた手の上に、はずみでケーキを乗せてしまった僕。
地味な1生徒で過ごそうと思っていたのに、ファーストコンタクトからスゴイ印象を与えてしまった・・・





「皇さんにメイクすればいいんですか?」
僕が呼ばれた理由は仕事の依頼があるからだった。
そりゃまぁ、フツーに考えてケーキを食べさせるために呼ばないよね。
「皇には今年から役員会議とか重要な会議に出てもらおうと思っているんだが、見た目で軽く判断されてしまう可能性があるからね。経営能力や分析能力は老人達以上のモノを持っているのに、腹立たしい」
「どうして僕なんですか?父さんや叔母さんじゃダメなんですか?っていうか、叔母さんの了承を得てるんですか??」
見た感じ、このお兄さんって叔母さんの好みなんだよね。
僕が勝手に仕事しちゃヤバいでしょう、やっぱり。
「家の大事な後継ぎを任せるには希代の化粧師と呼ばれる君が最適だと思ったんだ。皐月さんには、さっき連絡しておいたよ」
「ソウデスカ・・・」
うぅ・・・それでも面倒な事にならなきゃいいケド。





父さんの家系には『化粧師』という能力を持つ人が居る。
僕もその1人。
化粧師はその名の通り人に化粧をする仕事。



僕が1番好きなのは女の子にメイクをすること。
その子の魅力を最大限に引き出して、メイク後に笑顔になってくれるのが嬉しい。
笑顔は化粧師の最高の報酬、だって父さんも言ってるしね。



「いつから始めればいいんですか?」
「今、すぐに」
まぁ、先払いで報酬は頂いているから仕方ない。
「・・・・・・・道具を取ってきます」
「必要そうな物は揃えておいたよ。それに、本物は道具を選ばない、だね?」
「その通りデス・・・」
用意がよろしい事で。
流石、理事長様ですネ・・・



道具を広げて皇さんの正面に座り、その顔をよく見てみる。
赤茶色の瞳、栗色の髪。
顔立ちも純粋な日本人ではない。
お母さんが外国の方なのかな。
「そうじっと見られると照れますね」
「男同士なのに何を照れる必要があるんですか」
「あ、うん、そう・・・ですね」
変な人。



「何か肌の手入れをしてますか?」
「特にはしてませんよ」
「へぇ・・・男の人の割には白くて綺麗な肌なんだよなぁ・・・」
頬に手を寄せるとビクっとして僅かに顔を赤らめた。
「あ・・・」
「はい?」
「いや・・・何でもないです」
本当に変な人。
変な人だけど・・・肌は超上質。
これは仕事しやすいや。



見た目よりも中身ってよくいうけれど、見た目から入らないと中身まで到達できない場合が多い。
この人も大変だなぁ、未だ美少年って年齢なのにさ。
「はい、いいですよ」
筆を置いて手鏡を渡す。
元々整った綺麗系の顔だったから、ちょっとのメイクでかなりの効果。
「うわ・・・」
「第一声が「うわ」って何ですか」
「濃いのでは・・・」
「貴方の顔が濃いんですよ。どうするんですか、止めますか?アッサリした感じにしちゃうと貴方が折角持っているカリスマが落ちちゃいますよ。それじゃあ意味がないでしょう?」
ちょっとカチンときたので強い口調になってしまった。
いけないいけない、お客さんなのに。
「いや、ありがとう空くん。これを見ると一流に年齢は関係ないって思うよ」
真朱さんはいい人だ!!
「ありがとうございます、それでは僕はこれで失礼します。会議がんばって下さいね、皇さん」
「ええ、ありがとう、西神さん。これからもよろしくお願いしますね」
「はーい。又、ケーキを用意しておいて下さいね」
これからも・・・か。
仕方ない、付き合ってやるか。





「ただいま、父さん」
「おかえりなさい、空」
ベッドの横に腰かけると、横になったままの父さんは私の髪を撫でて優しく微笑んでくれた。
私・・・・・父さんの前でだけ、「僕」は「私」に戻る。
メイクを落として、黒のカラーコンタクトを外す。
父さんが好きだという翠の瞳。
私も自分の中で一番好きだ。



日本に来て、この家に置いてもらうために私は条件を出された。
私の顔が大嫌いな叔母さんに。
「人前では目立たない顔の男として過ごすこと」
それが、条件。


化粧師の能力を使えば難しいことではない。
父さんと一緒に居られるなら見た目なんてどうだっていい。


学校に通うために真朱さんは私の性別を知っているけれど、素顔は知らない。
この国に私の素顔を知っている人は、父さんと叔母さんの2人だけ。
素顔を見せない化粧師。
それはそれでアリなのかもしれない。



「真朱さんから電話があったよ。皇くんのメイクをする事になったんだってね」
「いつまでやるんだか分らないけどね、とりあえず1回やってきた。お客としてはやりやすいよ。綺麗な肌をしてるんだ」
「肌を褒めるとは、空らしいね」
ふわふわと父さんが笑う。
風に揺れる花のよう。
綺麗だなぁ・・・
「・・・・・まぁ、バランスのとれた顔だね。大抵の女の子は好みなんじゃない?後、穏やかそうに見えるあの表情・・・あれで人の警戒を解けるから、他人の信頼を集めやすい。あの年で板についてるっていうのが怖いくらい」
「・・・・・・」



初対面の人に必ずプラスの印象を与えるイメージ。
皇さんはそれをかなり前から身につけている。
上に立つものとして、それはとても重要なことだろう。
だけど、何故?
未だ少年と言える年齢なのに、どうして急いで身につけなければならなかったんだ?




ま、そこまで深く考える必要もないけど。
私は必要な時に必要なことをして報酬としてケーキを頂ければよいのです、はい。






「いいよ」
「あぁ、ありがとう」
あれから毎日のように放課後になると仕事を頼まれる。
=毎日のように会っているというわけで、皇とはそれなりに打ち解けてきた。
「そちらの仕事はどう?」
「君のおかげで上手くいってるよ、ありがとう」
「そう言ってくれると嬉しいけど、皇に力があるからこそだよ」
パタパタと仕事道具を片付けていると、皇は遠慮がちに声をかけてきた。
「あ・・・誕生日・・・」
「ん?」
「今度の土曜の体育祭、誕生日なんだって?」
「今度の土曜日・・・・・あぁ、そうだね。うん、そうだよ。よく知ってるね」
誕生日か。
自分でも忘れていたよ。



「何か欲しい物はない?あ・・・・その、仕事のお礼にって思って」
「いいよ、そんなの。報酬はケーキで貰ってるから。いつもありがとねー、好きなのに家だと食べられないからさぁ」
「・・・・・・そうか」
僅かに落胆したような顔。
あれ?
何か悪いこと言ったかな?



そして、今週の土曜日。
体育祭当日。
僕は救護所で見学。
ドクターストップなんていうのは言い訳。
着替え云々で性別がバレると面倒だから、ってだけ。



赤組のリーダーである皇は、フツーの人が着たらかなり浮くし笑える服装だけど似合ってるのがスゴイ。
クラスの友達は、体育祭の写真集が裏で売られるらしいって言ってた。
すっごいねぇー、モテ王子。
次の仕事の時にからかってやろう。



いよいよ問題の「借り者競争」が始まった。
ぶわっと会場の熱気が高まる。
借り者用紙なるものを見ているモテ王子。
何やら考えてる様子。
どんな人を選ぶんだかねー。
誰を選んでも話題になること間違いなしだけど。



モテ王子が動いた。
ザワつく会場。
のほほんと見ている僕。
そして、王子は・・・



「おいで、空」
今、僕の目の前に。
はいーーーー???
「ダメだよ、僕はドクターストップが・・・」
「それでは、抱きかかえていけばいいね」
「は・・・・はぁ???」
ひょいっと両腕に抱きあげられる。
「首につかまってくれないと危ないよ」
「お、降ろして、降ろせぇ!!!」
ポカポカと背中を叩いてもまるで無視。
「危ないって」
「やーめーろー!!」
後にも先にもこんな事は起こらないだろう。
男同士のお姫様抱っこなんて・・・





「信っじられない!!」
目立たない1生徒が・・・中高全校生徒の注目の的に・・・
借り者は「中等部の生徒」
そんなん沢山いるじゃないかよー!!
ううう・・・
「まぁまぁ、1位になれてよかったとしてくれ」
「うわぁぁぁ!!来ないで、さ、触らないでぇぇぇ」
人の目を避けて校舎の狭間まで逃げてきたのに追いかけてきやがった!!
何をされるかわからない。
触られるのがオソロシイ!!


「・・・・・驚かして悪かったよ」
「はぁ・・・・・」
壁を背にして座りこむ。
体育祭はフツーに進行中。
沈黙する僕たち。



「こんな所で何だけど、お誕生日おめでとう」
「え?あ、ありがとう・・・」
手渡された小さな袋。
中に入っていたのはアンティーク風のロケット。
「そういうの好きかと思って。人の写真でも場所の写真でも入れて・・・使ってくれると嬉しい」
「確かに好き・・・だけど・・・」
13歳の男の子向けには見えない。
ま、いっか。
家族の写真を入れよっと。
フツーに嬉しいや。




ロケットを首にかけて手でいじっていると、皇は僕の正面に座ってじっと目を見つめてきた。
「な、何??」
「私は君のことが好きだ。愛してるという意味で」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・何か反応して欲しいんだけど」
「ノーマルじゃなかったのか・・・。東雲の将来が不安だ・・・」
呆然とする僕の髪を撫でながら、首を傾げる。
「生産性の問題?」
「アンタ、生生しいよ・・・」
「私は至ってノーマルだ。生産性も問題ないと思うが君に問題があるのなら仕方ないな・・・相手が見つからなかったら養子をとろうと思っていたくらいだからいいとするか」
一人で納得するなよ。
話にならんわ!!
「話を根本に戻すよ?僕は男、わかる?」
「・・・・・そう、見えるな」
「だよねぇ?そこはわかってるよねぇ?」
それが分かっていてこんな事を言うか?



「特別に、1つ秘密を教えようか」
「はい?」
「私にも特別な能力があるんだ」
「はぁ」
「真実を見る目。物事の本物を見る目」
「は・・・・・ぁ・・・・」
真実を見る目?
そんなモノがあったとしたら・・・
「初めて会った日から、私の目に映った君は美しい少女だったよ、空」
僕の事、バレてたんだ。
とんでもない、化粧師の商売敵かよ。



じっと商売敵を見る。
にっこりと綺麗な顔で微笑まれると、僕の中の私がちょっとだけドキッとした。
むぅ・・・
「かわいい」
「・・・・・・・・ぎ、ぎやぁーーー!!!」
首筋にキスされた・・・
こ、この男・・・・・
「どんな顔をしても可愛いな。一番可愛いのは仕事後に一瞬気を抜いた時、何度抱きしめたい衝動に駆られたか。私の我慢強さを褒めてほしいくらいだよ」
「褒める、褒めてやるから離せ!こんな所、フツーの人達に見られたら変な噂を立てられるだろうが!!」
男同士で熱い抱擁。
「借り者競争のジンクスが変わるかも。一緒にゴールした男女じゃなくて一緒にゴールした者達って」
「僕を巻き込むな、変態」
「恥ずかしがり屋だな、空は」
「何処をどう解釈すればそうなるんだ・・・」
頭痛い・・・



「それで、答えを聞かせて欲しいんだけど」
「は?」
「君は私の事が好きか?」
「はい?」
「その「はい」は肯定か、疑問か?」
「いや・・・」
「嫌?」
「あ、いや、嫌じゃなくて・・・・・」
「じゃあ、いいんだな。では、明日は初デートという事で。大丈夫、仕事は休みだから!!」
「だ、だから、冷静になれ、なってくれ。僕は・・・」



「可愛い女の子・・・だよ」
コツンと額を合して見つめあう。
かぁぁっと顔が熱くなってくる。
いやいや、今は僕は僕だから赤面するわけが・・・



「あ」
「な、何?」
第3者の目から見れば男同士の熱い抱擁中、皇は急に真面目な顔になった。
「それが君のポリシーなのかは分からけど、ちゃんとサイズのあったモノを着用しないと歳をとってから崩れるっていう。成長段階の今、気をつけた方がいいんじゃないか。持っていないのなら系列の下着メーカーからティーン向けの可愛いのを送ろう。付け慣れていないならノンワイヤーの方がいいだろうな、うん」
体型を隠すためにきつく布で巻いてある胸を、両手でブニッと触られた。
いや、そんな生易しいもんじゃない。
・・・・・つかまれた。
「!!!!!!!!!!!!」
「年齢の割に大きいな。それでは余計に勿体ない事になる前に早急に手を打たねば、うんうん」
「・・・・・・・この変態野郎・・・
「?」
人の好さそうな、邪な事なんて全く考えてなさそうな顔。
笑顔の爽やかな美少年。
でも、僕・・・私には分かる。
コイツは、草食動物の皮を被った飢えた肉食動物だ!!
「離せ、変態!!どスケベ!!誰がオマエなんかとデートするもんか!!ばーかばーか、・・・・・・・・・・・・・・・・うわぁぁぁーん!!」



逃げ帰った私は、頭から布団を被って心に決めた。
報酬のケーキは残念だけど、もうアレの仕事は辞めさせてもらおう。
それで、もうアレと遭遇しないように細心の注意を払って地味な学校生活をエンジョイしよう。
そうだ、そうしよう。





しかし次の日。
アレは家まで笑顔で迎えに来やがった。
「休日にすみません、仕事をお願いしたいので空さんをお借りしてよろしいですか?」
とのたまって。



そして私は車に拉致された。
密閉された空間。
オソロシイオソロシイ・・・
「そんなに警戒するなよ」
「近づくな、触るな、話しかけるな、変態変態変態・・・」
「傷つくなぁ、健全な男子として至ってフツーな行動だけど?」
「その爽やかな笑顔で人の乳を揉んでおいて何が・・・・・うわぁぁぁーん!!」



べそべそと文句を言って車の窓に張り付いた私の背中に、コツンと頭をくっつけてくるアレ。
「・・・・・何だよう」
「どうやったら許してくれる?」
「僕にもう関わらないでいてくれたらいいよ・・・」
「それは、無理」
即答かよ。
反省の色がないのもここまでいくと清々しい。


「皇だったら僕みたいなワケありなんかじゃなくて、可愛い女の子がよりどりみどりだろ?」
「今まで女の子に興味を持ったことがないんだ、ドキドキしたのは空が初めて」
嘘だろぅ!?
世の中には可愛い女の子が溢れているというのに!!
「これから先も、私は空以外の女の子に心を動かされないよ。私は本物しかいらない、私の本物になって欲しい」
聞き方によってはプロポーズ紛いの事を・・・
何なんだよ、コイツ・・・



「僕が皇を好きになるとは限らないけど」
「好きになるよ、絶対」
これが大企業の次期トップの自信というものなんだろうか。
ガックリと項垂れる私の首筋にキスが落とされる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
「海外生活が長い割に免疫が少ないな。それとも、意識してもらえてる?」



爽やか笑顔の人の好さそうな美少年。
実態はエロで変態だけど。
コイツとの付き合いが案外どころか相当長くなる上、
不覚にもコイツの言う通りになってしまうとは、13歳と1日目の私には予想できなかった。









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