おかあさんのひ








5の月、緑の月の1日。
「ねぇ、アーシュ、あのあかいおはななぁに?どうしてまちにいっぱいあるの?」
銀髪の女の子は手を繋いで隣を歩いている金色がかった銀髪の男の子にたずねた。
「カーネーション・・・・・ははのひにおかあさんにあげる・・・ひとがおおい」
「ははのひってなぁに?」
「・・・・・おかあさんに、ありがとうってきもちをつたえるひ」
「おかしゃまもカーネショもらったらうれしいかなぁ?カーネショ、どこかにさいてないかなぁ?」
「たぶん・・・・・ないとおもう。ふつうはおみせでかう」
「かうのにおかねいるよね?ルー、おかねない・・・」
ションボリと項垂れる女の子。
「・・・・・」


火の民の名門ブレイズ家の家長のたった1人の孫娘は未だ5歳。
超が付く程に裕福な家庭環境に育っているが、「お金の大切さが分かるようになるまでは安易にお金を持たせない」という教育方針により彼女自体は無一文。
「ルーもカーネショあげたいなぁ・・・・」
呟く女の子を見ると、眠そうな目をした男の子は軽く溜め息をついて握った手をクイっと引っ張った。



■□■□■□■□■




「カーネーションですか?ええと、ちょっと探してみますね」
研究院内にある植物園。
ここには門の世界のあらゆる土地の植物が集められている。
「カーネショあるといいねぇ」
「うん・・・・・」
ある事はあるだろうけど・・・と、アースはこの先の事を考える。
あらゆる土地の植物が集められている・・・が、どの状態であるのかは分からない。


「お待たせしました、赤のカーネーションでしたね」
「ありがとうございました」
「アーシュ???」
手渡されたのは2本のカーネーションの苗。
「すみません、お花があればよかったのですが」
「いえ、だいじょうぶです。さがしていただきありがとうございました」
多くの種類の植物があるとはいえ、 スペースや管理の手間を考慮して種の状態にあるものの方が多い中、苗があったのはラッキーだったのかもしれない。


「カーネショ、おはなないの?」
「・・・・・ルーとぼくで、これからさかせる。」
苗を持って書庫へと向かうアース。
母の日まで9日。
蕾すらない苗を咲かせる方法の確信は未だない・・・。







「最近、ルナソルの寝顔しか見ていない気がする・・・」
5の月、緑の月の8日。
溺愛する娘からの「おかえりなさいのチュウ」と「いってらっしゃいのチュウ」がなくなって6日目。
ファルシエールの体内ルナソル不足は深刻な状況になってきていた。


研究院に1日居て何かをやってる・・・らしい。
研究院に通い始めたのは7日前。
家に帰ってくる時は必ずアースと融合してて、融合を解いた後に直ぐ寝てしまう。
こうなったのが6日前。


「研究院で何をやってるんだろう・・・・・」
気になってサイに聞いてみたものの「アースに「こどものひみつをのぞくの?」ってメーデと同じ目付きで言われマシタ・・・」とのことで分からないまま。
「アースがついているから大丈夫だよ。危ない事はしてないだろうし、「ひみつ」を教えてくれるまで待ってよ?」
「うん・・・・・」
すっかり母になったシイラに対して、何とも情けない父。
「ひみつ」が明らかになるまで枯れずに持つのか・・・??



■□■□■□■□■




「おっきくなったねぇー」
「うん、もうすこし・・・・・」
「素晴らしいですね。あの苗がここまで成長するなんて」
5の月、緑の月の9日。
研究院 ホリー・グリーンヘイズ研究室。
「私は自分の研究室に居る事はほとんどありませんし、人も来ないので自由に使って下さい」という厚意に甘えさせてもらって8日。
栽培用ポットの小さな苗は、植木鉢に移され蕾をつけるまで成長していた。


「あしただもんね、おかしゃまのひ。がんばろうね」
「じゃあ、ゆうごう」
「あい!!」
ルナソルが元気よく返事をすると強い銀の光が2人の身体を包み込んだ。
「何度見ても不思議ですね・・・・」
光のおさまった後に現れた1人の子供。
銀色の髪、紫水晶の瞳。
アースでもルナソルでもなく、男でも女でもない「白竜」。
「・・・・・・はじめよう」




小さな苗を成長させるにはどうすればいい?
苗の成長を進めればいい。


苗の成長を進めるにはどうすればいい?
時の能力を使えばいい。




ただ、問題はルナソルが時の能力を自分では上手くコントロール出来ないということ。
植物を成長させるのは時だけではないということ。
一度に大量の「時」を苗に流してしまえば枯れてしまうし、少なすぎれば成長しない。
庭に偶然落ちた種のように、時が流れても植物の命が健やかに成長するかどうかは分からない。



アースは書庫でカーネーションの育成方法を調べ、4属性と時の能力を混ぜて苗に送る方法を考えた。
融合すればそれが可能なはず。
はず・・・・・だが、彼らは融合状態で能力を使ったことがなかった。
最初の3日は複数の属性を混ぜて発動させる事に費やすだけで終わってしまった。



「本当によく頑張りますね」
カーネーションの状態を見ながら慎重に作業を続ける2人(見た目は1人)。
なかなか上手くいかなくても諦めないで続けるのは大人だって難しい。
諦めないのは大事に思う人のため。
諦めないのは2人がお互いの事を信じているから。


「もう・・・・・すこし」
白い光に包まれたカーネーションの蕾はゆるゆると膨らみ、赤い花弁が少しだが見えてきた。
「アースさん、ルナソルさん、少しいいですか?」
「・・・・・・・はい」
再び強い銀の光が広がると、アースとルナソルは分離した。


「ここまで成長すれば明日には咲くと思います。後は自然の力に任せた方がいいですね。もしも花が開ききらないようでしたら、掌で蕾を温めてあげてください」
「はい」
「あい」
頷く2人を見ると、ホリーは机の引き出しからピンク色の紙を取り出した。
「おかあさんに手紙を書いてあげてはどうでしょうか。きっと喜んで下さると思いますよ」
「てがみ・・・・」
「てがみ?ルー、じかけない・・・」
困った顔をするルナソルに紙を手渡すと、ホリーは優しく話しかけた。
「手紙は字で書かなくてもいいんですよ?絵でも気持ちは伝わるものです」
「・・・・・・・おきづかいありがとうございます。ルー、てがみかこう」
「うん。ありがとござましゅ、ホリーしゃん!!」
「それでは、頑張ってくださいね」
色えんぴつを机の上に乗せると、ホリーは静かに自分の研究室を出て行った。



「絵でも気持ちは伝わるけど・・・・」
「どしたの、アーシュ??」
一生懸命に絵を描いていたルナソルは、隣でポツリと呟くアースの言葉に手を止めた。
「じ、おしえてあげる。いちばんつたえたいきもちはことばにしたほうがいい」
「ルー、おぼえるのとくいじゃない・・・」
「だいじょうぶ、いっしょならできる」
ほとんど表情が変わらないアースが、微かに笑う。
「しょだね、アーシュといっしょならできるね!じゃあ、おしえて?」







5の月、緑の月の10日。
ブレイズ家 仲良し親子の部屋。
「はぁ・・・・・・・」
待ちに待った休日。
今日は1日、愛★娘と過ごす気満々だった父はガックリと沈んでいた。
「今日に限って早起きするなんて・・・」
普段は早起きが超苦手なルナソルが、今日に限って自分よりも早く起きて出かけてしまったのがショックでならないファルシエール。
「本当に、どうしたんだろうね?」
首を傾げながら、愛する旦那さまにお茶を差し出すシイラ。


「おかしゃま、おかしゃま!!」
バーン!!と勢いよく部屋に駆け込んできたルナソルは、真っ直ぐにシイラへ向っていった。
「どうしたの、ルナソル。あ、そうだ。「おはよう」」
「おはよござましゅ」
ぺこりと頭を下げて朝の挨拶。
挨拶は人間関係の基本、これまた教育方針。
「お、おはよう・・・ルナソルー!!」
「おはよござましゅ、おとしゃま・・・・・ダメ!!」
「え・・・・・」
ようやく起きている状態の溺★愛★娘を感激のあまりに抱きしめようとした瞬間、ものすごい勢いで避けられてしまったファルシエール。
呆然。



「どうしたの、ルナソル」
「おはな、つぶれちゃう・・・」
「おはな・・・・?」
小さな腕の中にある小さな植木鉢。
そこに生えているのは1輪の赤い花。
「カーネショ。おかしゃまのひなの!!」
「あ・・・・・これ・・・・・?」
「アーシュとしょだてたよ。ホリーしゃんもてつだってくれたんだよ」
ようやく「ひみつ」を理解できた両親。


「ありがとう、すごく嬉しい」
「あとね、これ、てがみなの」
大事な花をテーブルに乗せ、差し出されたピンク色の封筒を開いて中の「手紙」を読んだシイラは、泣きながら小さな身体を強く抱きしめた。



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5の月、黄の月の1日。
「子供の成長って、あっという間だよね」
「本当だよな」
それぞれの家族を思い、ぽーっとする父2人。


「花も驚いたけど、手紙っていうのがな」
「うん。シイラなんて大泣きしちゃったもん」
「家は大爆笑だった。長い付き合いだけど、あんなに笑ったメーデを見たのは初めてだよ」
「何て書いてあったか、見せてもらった?」
「ああ・・・・・いや、まぁ・・・・」




同時刻。
それぞれの子供から貰った手紙を愛しそうな目で読む母2人。


メールディアへの手紙。
幼児とは思えないきっちりとした読み易い字で書かれているのは・・・





お母さんにお願いがあります。
もう少しでいいのでお父さんに甘えたり頼ったりしてあげてくれませんか?
自立した出来る女性の見本のようなお母さんがするのは難しいかもしれませんが、お父さんはそれを望んでいると思います。
お母さんが笑顔で「ありがとう」と言ってくれると、お父さんはすごく嬉しそうです。
僕はお母さんもお父さんも大事で、2人が仲良くしていると嬉しいです。
母の日なのにお願いの手紙でごめんなさい。
お母さん、いつもありがとうございます。
綺麗で強くてカッコいいお母さんが僕は大好きです。



「本当に、誰に似たのかしら。変な所で気をつかい過ぎだわ」





シイラへの手紙。
シイラの似顔絵と思われる幼児特有の絵の横に、1文字1文字大きく丁寧に書かれた短い手紙。





おかあさま


だいすき



「私も大好きだよ。ルナソルのお母さんでよかった」





伝えたい気持ちは「ありがとう」と「だいすき」。
2人の気持ちは大好きなお母さんに優しく届いていった。









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