とりっく・おあ・とりーと! ★後編★





「こんにっちはー!!」
毎度の如く元気いっぱいにサイの研究室に入って行くと、誰にも迎えてもらえず。
「アースー!!おとしゃーん!!ほりーしゃーん!!」
…………
返ってくる声はなく。
「ほぇ……しょだしょだ、しょうたいじょう!!」



いつものお決まりの場所に座り、カバンから出した紙をテーブルに置いてクレヨンを握っていざ作成。
綺麗な招待状を作ってアースにびっくりしてもらおう!
ルナソルのやる気ボルテージはMAXだった。
そして20分後。
ルナソルのやる気と思いはあまりに強すぎて、元気いっぱいの文字と沢山の色の抽象的な絵で埋め尽くされた………一般人が見ても理解不可能な落書きが生み出された。
しかし、ルナソル的にはスゴく満足な出来になったらしく、ウキウキとしてアースに手渡す時を待つのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「アースゥー!!」
考え事をしながら研究室に入ったアースは、ルナソルの強烈な体当たりを正面からモロに食らった。
結構痛かったけれどそこは男の子。
グッと我慢して何事もなかったかのように対応。
「待たせてごめんね、今………」
「あのね、あのね、アース!!」
ぐいぐいと袖を引っ張りまとわりついてくるルナソル。
いつも以上のしつこさにアースは首を捻った。



「うん?」
「あい、しょうたいじょうなのよ」
「招待状?僕に?」
「しょだよ。ねぇねぇよんでみて!」
期待に満ちた顔からいって余程の自信作なんだろうと察し、ルナソルの目の前で「しょうたいじょう」を開いてみる。


「(アースへ あした………)


アースの目に飛び込んできたのは、カラフルな大小の丸やらウネウネやらで埋め尽くされた紙面とその中央に書かれた元気いっぱいの文字群。
読みにくいったらありゃしないのだが、一応意味の分かる文章になっている。
アースはそんな所に感心していた。
同じ歳なのに保護者のようだ。



「あのねぇ、あしたおかしゃまにおかしつくってもらってねぇ、みんなでおかしたべるのよ。しょうたいじょうをわたしておまねきするのおとなみたいでしょ?ルーねぇ、しょうたいじょうでおまねきしてみたかったのよ」
同年代の子供よりも子供っぽいのに大人のする事に憧れる。
しかも何処か見当違いの憧れ。
そのせいでアースはやたらと厄介事に巻き込まれる。
毎回なんやかんやで切り抜けてきているのでアース自身は別段気にしていないのだが。



「そうなんだ。どうもありがとう………あれ?みんな……って、僕の他には誰を誘ったの?」
「んとね、かぼちゃん」
「かぼちゃん………?」
ふとアースの脳裏に先ほど遭遇したかぼちゃ頭の不可思議生物が過った。
いやでもまさか、と悩んでいるとルナソルはニコニコとして話し続けた。



「かぼちゃんねぇ、とおいくにからきたんだって。かぼちゃのおぼうしかぶってておもしろいんだよ。ルーもかぼちゃのおぼうしかぶりたいなぁ」
かぼちゃん=不可思議生物。
アースの頭の中で2つの言葉が結びついた。
何がどうしてこうなったのか意味が分からないが、とにかくルナソルと不可思議生物の接触があったらしい。



「ねぇ、ルー。その………かぼちゃんに何か聞かれなかった?」
「いちばんすきなおかしおしえてっていったからね、ルーはおかしゃまのおかしっていったんだよ。しょしたらね、いちばんはひとつなんだって。でもね、ルーはおかしゃまのおかしじぇんぶすきなんだよ。しょれでね、かぼちゃんもおかしゃまのおかしたべたらじぇんぶすきになるとおもっておまねきしたの」
知り合って間もない不可思議生物を家に招待する理由は分かった。
分かったけれどそれでいいのか?と引っかかる。
見た目はオマヌケだが、あの生物には得体の知れない部分が多い。
何といっても子供を騙して何かをさせようとしているヤツなのだから。



「えぇと……その……ルーがそのかぼちゃん?をお家に招待するってお母さんとかお父さんに言った方がいいんじゃないかな。もしかしたら、都合が悪いかも……」
「おかしゃまいいよっていったよ」
「えっ?!」
オドロキモモノキ。
思い立ったが一直線のルナソルだから、ひょっとしたら家の人に了承を得ていないのかもしれない。
そう思っていたアースは素で驚き、感動していた。
今日はルナソルの成長した部分を見られたと……



「あのね、かぼちゃんがおうちのひとにいわないとこまっちゃうよっておしえてくれたの」
「あ、そうなんだ……」
ルナソルの判断ではなかったと分かり、カクリと首を垂れる。
かぼちゃんが教えてくれた……?
よくよく考えると辻褄が合わない。
アースと会った時には自分の存在をアース以外には知られたくないような感じだったのに、ルナソルにはお家の人に聞いた方がいいと言った。
それは………
じぃっと考えて1つの答えに行き着く。



お家の人に聞いてくる間に逃げようとしたけれど、ルナソルがシイラをその場に呼んでしまい引くに引けなくなった。



ようするに、ルナソルのマイペースにどどん!と乗せられたに違いない。
正体不明の異世界の生物であろうと自分のペースに巻き込むルナソル。
最強。
「ねぇねぇ、アースはなんのおかしたべたい?おかしゃまにおねがいするよ」
「ありがとう。それじゃあ、アップルパイがいいな」
同じお菓子なのに、少し前にかぼちゃんに答えた時と言い方が明らかに違うのはご愛嬌。
「わぁ!あっぷるぱいしゃくしゃくであまじゅっぱくておいしよね!!ルーもだいすき!!あのね、ルーね、ぱいきじにりんごならべるのてつだえるんだよ」
「すごいね、お母さんとお菓子作れるんだ」
「えへへっ!」
ご機嫌状態のルナソルとは反対に、アースは悩んでいた。



「ルー」
「あい?」
「あ、あのさ、今日は早くお家に帰って明日の準備をしたらいいんじゃないかな。お菓子を決めたり……しなくちゃいけないでしょ?」
「しょだね。うん、しょうする!!」
「じゃあ、転移するから準備しよ」
「あい」
今日みんなで食べるはずだったおやつをカバンに詰めて、手と手を繋いでお家へゴー!
「あ」っという間にドデカイお屋敷の門の前に到着。
手を振ってお別れして、アースは研究院に戻った。



「(予定変更しなくちゃ……)」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





その夜。



窓を開け緑の月を見上げると、アースは「呪文」を唱え始めた。


「トリック・オア・トリート、トリック・オア・トリート、トリック・オア・トリート」


アースの声が止まると空に淡いオレンジの光が徐々に集まっていき、やがて何かを形作っていった。
何か……それはアップルパイだった。
「………」
アップルパイは不安定な動きをしながら下へと降りて行き、アースの目の前で止まった。



「…………」
受け取って!といわんばかりのアップルパイの積極的な行動を無視し、アースはジッとアップルパイを見つめた。
「…………」
5分が経った。
しかし、アースはアップルパイを見るだけで手に取ろうとはしなかった。
10分経っても、15分経ってもアップルパイを見るだけで何もしない。
「…………」
「…………ゥ…………」
20分が経った。
空中に浮いているだけだったアップルパイが落ち着きなく揺れ始めた。
それでもアースはその様子を見続けた。



「………疲れましたか?」
「…………!?」
どこか冷ややかな声のアースの問いにアップルパイはビクッと動いた。
「姿消しの魔法を使っているようですが、僕の領域に入った段階で存在はバレバレですよ?」
「……性格ノ悪イ子供ダ……」
アップルパイを持ったかぼちゃんが悔しそうに姿を現すと、アースはニッコリと笑って答えた。
「初めて言われました。僕って面倒見がよくて手がかからなくて頭のいい子としか言われた事ないんで」
性格があまりよろしくなさそうな返答である。



「トコロデ、コレ」
「結構です」
改めてアップルパイを手渡そうとすると、アースは首を横に振り拒否の姿勢を見せた。
「エー!?ナ、何デ何デドウシテ?」
今までお菓子を拒否する子供なんていなかったものだから超オドロキ。
子供はみんなお菓子が大好きで、くれるのなら貰うと思い込んでいるのだからかぼちゃんは結構純粋だ。



「そんな出所の分からない怪しげな物は受け取れません」
「怪シゲトハ失敬ナ。コレハオ菓子ノ世界デ買ッテキタ超美味シイあっぷるぱいナンダゾ!」
酷い言われ方に一瞬ポカンとした後、かぼちゃんはムキになって怒った。
「あぁ、そうなんですか。超美味しいならどうぞ、ご自分で召しあがって下さい」
「イヤ、ソウジャナクテ。コレハ君ノりくえすとダロウ??」
「別に欲しいなんて思ってませんし。貴方は『アップルパイが好きなだけ坊っちゃんの前に現れる』と言ってました。僕は本当に出てくるのか見てみたかっただけです。それに……」
アースの右目が緑から金へと変わっていくと、かぼちゃんに表現のしようがない寒気が襲ってきた。
「それに、その「おかし」を貰うと「いたずら」するんでしょう?」



寒気の正体は恐怖。
オバケが本来感じることがない感情。
かぼちゃんは逃げる事を選択しようとしたが、それは叶わなかった。
既に恐怖で身体が動けなくなっていたのだ。



「あぁ、そうでした。この世界から逃げないで下さいね。明日はルーと約束しているんでしょう?」
「約束……」
「忘れたとか言わないで下さいよ?ルーはお客さんをおもてなしするんだって張り切っているんですから。貴方が来れなくなったとかいったら悲しみます。ルーが悲しくて泣いたりでもしたら……どの世界に逃げても必ず見つけて相応の反省して頂きますので、そこの所を宜しくお願い致します」
言うべき事を言うとアースの右目は元の色に戻り、子供には不釣り合いな威圧も無くなり、かぼちゃんの硬直はようやく解けた。



「ハ、ハイ……ソレデハ、明日……」
「はい、明日。必ず来て下さいね?」
かぼちゃんは泣きそうだった。
かぼちゃんは早くお家に帰りたくなった。
だけど、そんな事をしたらこの子供に何をされるか分からない。
今日はアップルパイを食べて大人しくしていよう。
明日、どんぐり娘の家でやる事やったら直ぐオバケの世界に帰ろう。
ノルマに1人足りないくらい命に比べりゃ大したことないやい!
一瞬の間にそこまで考え、かぼちゃんは光の速さでその場を去った。



「……えっと、犯人は明日ルーの家に現れます。ルーが「おもてなし」に満足したら、後はどうとでも好きにして下さい。正直、僕はもうあまり関わりたくないです。眠いのでもう寝ます、お休みなさい」
独り言にしてはおかしな事を言い終わると窓を閉めベッドに入り、ものの3秒でアースは夢の世界へ旅立った。
その寝顔は見ている者が思わず微笑んでしまうくらい年齢相応の非常に愛らしいものだった。









ルナソルプロデュースおもてなしの日。
ブレイズ家 応接間その5


部屋の中央のテーブルには「これでもか!」というくらい大量のお菓子が並んでいる。
ファルシエールは溺愛する娘を抱き上げると、その柔らかい髪を撫で、ぷくぷくとした頬に自分の頬をすり寄せた。
「随分沢山作ったんだねぇ。ルナソルはお母さんのお手伝いをたーくさんしたんだねぇ?」
「しょだよ。アースとかぼちゃんにいっぱいたべてもらうの!」
ニコニコとして答えるルナソル。
前日から「おもてなし」の準備を頑張り、お父さんとお母さんに褒めて貰ったので上機嫌だ。
しかし。



「かぼちゃん……」
ファルシエールは表には出さないが苦々しい思いをしていた。
あのくだらない事件の真犯人という輩がやってくるのだから。
シイラには余計な心配をさせたくないし、ルナソルの楽しみを奪ってはならない……というわけで2人には何も話していないし、「おもてなし」を中止することもしなかった。
「…………」



アースは「両親には話さない」という約束をしていたため、かぼちゃんの事を文書でメールディアに伝えていた。
揚げ足を取るようでセコイやり方だが、異世界からのお客さん情報を魔道院に所属している母に教えないわけにはいかなかったからだ。



「(……どうせ帰って貰うんだから、少々それが早くなろうが構わないんじゃないかなー。ルナソルには残念だけど帰っちゃったからお父さんとお母さんと一緒に仲良くお菓子を食べようねぇ〜って言ったら、きっと元気になってくれるよね。うん、そうだそうしよう)」
「(バカな事を考えているんじゃないわよ?)」
背筋が凍るような声が頭の中に響き、ファルシエールはチッと舌を鳴らした。



「めるしゃん、こんにちはー!!」
「こんにちは、ルナちゃん」
部屋に入って来たメールディアは自分に近づいてきたルナソルをぎゅうっと抱きしめ、そして一瞬だけファルシエールに目を向けた。
「(途中から貴方都合の話になってるじゃないの。本来メンバーに入っているはずのアースを華麗にスルーしているし)」
「(人の心の中を勝手に読まないでください)」
「(邪悪な思考は姉として阻止しなくちゃいけないもの)」
「…………」
「…………」
変な所でミラクル双子パワーを発揮する2人。
とりあえず、メールディアのお陰でかぼちゃんの身の安全は一時保たれた。



「ねぇねぇ、アースは?」
「アースはお母さんと一緒にかぼちゃん?を迎えに行ったわよ」
「ぬぁんだってっっ!?」
「うっさいわねぇ。さぁ、ルナちゃん、お客さんが来る前に可愛くおめかししましょうねぇ〜」
「あいっ!」
メールディアは持参したワンピースを取り出してみせると、ルナソルの手を引いて機嫌よく部屋を出ていった。
残されたファルシエールは……



「(異世界のかぼちゃ被ったヘンテコ生物を迎えに行っただって?迎えに?何でシイラが僕のシイラが僕の愛するシイラがわざわざ迎えに行かなくちゃならないんだよ!そんなの強制的に呼びだしちゃえばいいじゃないか。召喚契約してないから5体満足に呼び出せなくてもそれはそれで仕方ないよね。うんそうだ仕方ない。早速実行しなくっちゃ!!)」


ニヤリと笑うとファルシエールはブツブツと怪しげな言葉を発し、空中に文字を描き始めた。
『我ハ求メ……』
「はい、そこまで」
「ゴホッ!!」
召喚を中断された為に不完全燃焼のエネルギーが暴発し咳き込むファルシエールを見て、サイはやれやれといった様子で苦笑した。



「な……なにするのさ……」
「ファルがおかしな事をしないように見ていてネ☆って言われたんだよ」
「おかしな事なんかじゃないよ。何かあってからじゃ遅いんだからねっ!僕は僕に出来る最善の事をしようとしただけなんだから」
「オマエさんの最善はダイナミック過ぎるの。大体ね、『余程凶悪なお客さん以外はなるべく穏便にお帰り頂く事』っていうルールを魔道院の管理職が破っちゃマズいでしょ」
「バレるようなヘマするわけないじゃない。生かさず殺さず上手くやるって」
優雅に微笑んで得意そうに言ってるが、内容はとてつもなく物騒である。



「あー……分かった」
「分かってくれた?」
「あぁ、シイラ達が帰って来るまで付きっきりで見張ってないとヤバいって事が分かった」
「………」
流石の我儘王子も引くべき相手には引く。
不機嫌そうに椅子に座ると、ファルシエールは目を閉じて様子を見る事に集中し始めた。



その頃、かぼちゃんは……




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「帰ル、帰ラナイ、帰ル、帰ラナイ……」
かぼちゃんは熱心に花占いをしていた。
帰るべきか帰らざるべきか、それが超問題だった。


「帰ル、帰リタイ、帰ル、帰レナイ……」
既に言ってる事が訳分からん状態になっているのだが、そんな事も気付かずに花弁をむしり続けていた。
それくらい必死。
オバケのプライドよりも我が身の安全第一。



「かぼちゃーん」
「ハイッ!!」
シイラの声にパッと花を手から放り、ウキウキッとした様子で振り返るかぼちゃん。
切り替えが早い。
「待たせちゃったね、ごめんなさい」
「イエイエ、オ気ニナサラ……ゲェッ!!」
「ゲェッ!!とは失礼ですね。僕も出来れば余計な労力を使いたくなかったので、約束を守って頂けてよかったです」
テンション再ダウン。
シイラの横に立っていたのは、もう2度と会いたくなかった子供……アースだったからだ。



「アースとかぼちゃんもお友達なの?」
「ただの知りあいです」
「アースはメーデに似て恥ずかしがりなのね」
照れてるとかそういう問題でなく本当にただの知りあいなのだが、根っからの善人でピュアピュアなシイラを悩ませるのも悪いと思い、アースは否定もせずに黙り込んだ。



「それじゃあ、行きましょう。はいっ」
ポポポンッと小花が散るような愛らしい笑顔でシイラは右手を差し出した。
ルナソルのお友達?だから子供だと思っているようだ。
見た目でハッキリとした判別は出来ないのだが、かぼちゃんは子供でないとアースは思っていた。
だから、デレデレっとしてシイラの手を握ろうとしているかぼちゃんに起きるであろう災難も何となく予想していた。
……が、とりあえず知らぬふりを通す事にした。
面倒だったから。
「ア、ハ、ハ………ウギャーー!!!」
シイラの指に手が触れようとした瞬間、かぼちゃんは奇声を発し身体を硬直させた。
罰ゲームよりもハードな電気ショックが背中を走り抜けたのだ。



「ど、どうしたの??」
「ギャーーーーーーーーー!!!」
心配したシイラが肩を触ると、電気ショック第2波がかぼちゃんを襲った。
「……あの、シイラさんとその人って体質が合わないんじゃないでしょうか。逆位置の能力者みたいに」
「あっ……そ、そうなのかな。痛くしちゃってごめんなさい、かぼちゃん。私達って触れ合うとビリビリってくる体質みたいなの」
「イ、イエ……何ノコレシキ……」
無関心を決めこもうとしていたが、これ以上電気ショックを受けると流石に命に別状が見られそうなので助け舟を出したアース。
シイラとルナソルが関わると無茶苦茶な事を平気で行う人を思い浮かべ、ゲンナリとした気分になっていた。
「(それにしても、シイラさんって騙され易過ぎるよね……)」
手が触れる前に電気ショックを受けていた事をサクッと忘れているのは如何なものかと思い、そっと溜息をついた。









「アース、かぼちゃん、よこしょおいでくだしゃいました」
ワンピースの裾を指で摘まんでチョコンとお辞儀。
昨晩から練習していた「おまねきの挨拶」だ。
「今日はお招き有難う御座いました」
希望に沿ってアースがかしこまった挨拶をすると、ルナソルは喜んでピョコピョコとその場で跳ねた。
色々と台無しな感じだが、そこはそれ。
ルナソルにあまり多くを望んではいけないのだ。



「おかしいっぱいあります。いっぱいたべてくだしゃいね」
「………」
「………」
テーブルの前で立ち尽くすかぼちゃんと、その様子を何となく哀れそうに見るアース。
「どうしたの?アースもかぼちゃんも席に座って?」
「はやくいただきますしよー」
そんな2人を見て首を傾げるシイラと椅子に座って既に食べる準備万端のルナソル。



「カボチャ……」
ボソっとかぼちゃんが呟くと、シイラはニッコリと笑ってお皿の1つを手に取った。
「そうなの。今日はかぼちゃのお菓子をメインに作ってみたのよ」
かぼちゃのパイ、かぼちゃのプリン、かぼちゃのクッキー、かぼちゃのマフィン……
「かぼちゃん、かぼちゃのおぼうしかぶってるからかぼちゃすきなんだよね?」
何故かルナソルの中で確定事項にされている。



「共食いですね」
「カボチャオバケダケド、カボチャジャナイ!!」
席についてヒソヒソと話す2人。
「あぁ、オバケなんですか。そうですか……納得しました」
「………」
「ねぇねぇ、いただきますしよーよー」
ようこその挨拶で「おまねきの儀式」は終了したらしい。
目の前に並んだ大量のお菓子の前にルナソルの我慢は限界だった。
「あ、ごめんね。それじゃあ、いただきます」
「イタダキマス……」
「めしあがれっ!!」
めしあがれと言ってる者がその場で一番食う気満々というのは珍しい光景である。



「あらあら、かぼちゃん。帽子は取ってから食べましょうね?」
「コ、コレハ取ッテハイケナイノデス」
「やっぱり共食い…」
「違ウッテ!!」
「どしてとっちゃめーなの?」
「決マリナンデ…………」
必死に頭部のカボチャを手で押さえ取らない意思表明をしていると、バーンと扉が開き、ユラリと背中に変なオーラを纏ったファルシエールが部屋に入ってきた。



「ほぅ、決まりとは何ですか?シイラとルナソルの手作り素敵お菓子を目の前にして被り物を取らないだなんて大した度胸ですね。その度胸に免じて僕自らの手でその被り物を粉々に割って差し上げましょうか?寧ろ割りますけどいいですかいいですね?それでは早速……」
突然現れた性別なんてどうでもいいくらい美しすぎる男?の登場に、頭部の危険も忘れ茫然とするかぼちゃん。
哀れ、このままスプラッタな姿にされてしまうのか。



「おとしゃまもルーといっしょにおかしたべましょ?」
阿鼻叫喚の事件が発生する直前、能天気な天使は救いの手を無意識に差し伸べた。
「ん〜〜、ルナソルたんは優しいなぁ〜♪」
ぱぁぁっと笑顔を輝かせ、異世界生物をあっさりと思考から追い出して、ファルシエールはルナソルの横に座った。
「はい、ファルもお茶どうぞ」
「ありがとう。シイラも座ったらどう?膝空いてるよ!!」
「ルーおとしゃまのおひじゃのるー」
「うんうん、おいで♪お父さんがプリン食べさせてあげるからね。はい、あ〜ん♪」
命の危険を回避し意識がハッキリをしてくると、かぼちゃんはもう何がなんだか分からなくなってきていた。
異世界の風習云々は数あれど、この家族の行動はあまりに理解不可能だった。
理解出来るはずもない。
父・母・娘がそれぞれ極端にマイペースなのだから……



「美味しいですよ?折角だから何か食べたら如何ですか。ファルシエールさんがあの状態の時なら何もされないですから」
静かにしていると思ったらアースは既にアップルパイを食べていた。
彼も又、平穏に生きるためにマイペースだ。
「コンナ子供初メテダ……」
「そうですか?僕ってちょっと頭の成長が早くて、ちょっと魔法の力が強い普通の子供なんですけどね」
「………」
かぼちゃんが何も言えずにガクッと首を垂れると、目の前にそっとお茶が差し出された。



「もしかしてカボチャのお菓子って好きじゃなかった?」
「イ、イエ。好キトカ嫌イトカソウイウ問題ジャナクテ、ヴィジュアル的ニオカシイトイウカ……」
「ヴィジュアル……あっ!もしかして、その帽子って呪いか何かで取れないとか?それで、本当は被りたくもないカボチャの帽子を……だ、だから、お菓子になっててもカボチャ由来の物は見たくもないんじゃ……私ったら……酷い事しちゃった……」
「ア、イエ、ソウイウ事ジャ……」
勘違いを大暴走させ、シイラは大きな瞳をウルウルとさせた。



刹那。



「貴方、僕のシイラに何をしたんですか?」
「ナ、何モシテイナイデスッ!!!」
シイラとルナソルを部屋の外に転移させ、ファルシエールは剣の切っ先をかぼちゃんの目の前に突き付けた。
「何もしてなかったら泣きそうになるわけないですよねぇ?ほぉら、早く言った方がいいですよぉ。言っても言わなくても5体満足に帰す気はないですけどぉ……」
「ヒ、ヒィィィィ!!!」
オバケの世界でもワルで通っている悪魔と同じくらい恐ろしい。
一般オバケのかぼちゃんにはハード過ぎる相手。



「………」
転移されなかった…というか存在を忘れられていたアースは、とりあえずお菓子に被害が出ないようガードに努めた。
ファルシエールの相手をするよりも世の為人の為と瞬時に判断したのだ。
「さぁて、パパッとやっちゃいましょうねぇ………」
「やりすぎなんじゃぁ、ボケェ!!」
スパーン!!と小気味いい音が部屋に響いた。
音の発生源はファルシエール後頭部。
ファルシエールの背後にはメールディアがスリッパを片手に持って立っていた。



「何するんだよっ!」
「五月蝿い。会が無事に終わるまでは、この子はルナちゃんのお客様なのよ。下手な事をしないで頂戴」
それじゃあ会が終わったら何をしてもいいんかい!という突っ込みが誰も出来ないブリザードを発生させ、メールディアはかぼちゃんに話しかけた。
「貴方はお客さんとしての役目をちゃんと果たしなさい。そして、会が終わったら貴方がこの世界に来た理由をちゃんと話しなさい。分かったわね?」
「ハ、ハイ………」
有無を言わせぬ物言いにビビりながらかぼちゃんが頷くと、メールディアはパチンと指を鳴らした。



「……とかしてくれたのよねぇ?」
「あい!」
「エライなぁ、そんなお手伝いが出来るなんてルナも大きくなったもんだ」
合図と同時にウフフアハハと和やかに談笑するシイラ、ルナソル、サイの3人が部屋の中に現れた。
「サイもお茶してって。キャラメルナッツのタルトもあるよ」
「ルーなっつぐるぐるしたの!」
「そっか、折角だから御馳走になっていこうかな」
急に部屋が変わったとかそんなのは些細な事だったようで実に楽しそうだ。
……というか、部屋が変わっていた事に気がついていなかったようだ。



「こっちすわって!」
「ありがとう、隣、失礼するよ?」
席に座るとサイは爽やかな笑顔をかぼちゃんに向けた。
「ア、イエイエドウゾ…」
やっとマトモそうな人が現れたと安堵するも、それは一瞬の幻だった。



「昨日の夜、家に来たでしょ。今度からはちゃんと玄関から来てね?危うく不審者だと思って痛い目に合わせちゃうところだったよ」
「ス、スミマセン……」
笑顔の向こうに潜む威圧感にかぼちゃんは妙なデジャ・ヴュを感じた。
嫌〜な威圧感。
蛇に睨まれたカエルの気分。



「お父さん、それ位にしてあげて下さい。あんまりやると泣いてしまいますよ」
「あははっ、ごめんごめん、つい」
悪気があるんだかないんだか。
そこの所はよく分からないが、兎に角とんでもない子供達とその家族に関わってしまった事は1つ何かのアクションが起こる度にヒシヒシっと理解を深めていってしまうのだった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「ところで、かぼちゃん」
「ルナソルプロデュース・おもてなし会」がようやく順調に進行し始めた頃、シイラは首を傾げて尋ねた。
「かぼちゃんは、遠い国から何をしに来たの?」
ルナソル以外の全員が一瞬ハッと動きを止めた。
「ソ、ソレハ……」
主にアースの方向からの威圧にかぼちゃんは口ごもった。
余程上手い事を言って切り抜けなければと、悪い汗がダラダラと流れている。



「ルーしってるよ!こどもにすてきなまほーのじゅもんおしえてくれるんだよ!!」
「魔法の呪文……?」
「しょだよ。ルーもだいじょぶなまほーのじゅもんなんだって!ねー、かぼちゃん?」
かぼちゃんの言葉を信じきっているルナソルはニッコニコ。
自分にも使える魔法を教えて貰えるのを心待ちにしている様子だ。



「ア、エト、エトデスネ……」
威圧が殺気に変わり、かぼちゃんの体温は一気に5℃近く下降した。
それでも死なないのはオバケだから。
『ルーを………騙したんですね?』
「ヒ、ヒィィィィ……」
頭の中に直接響く声と、恐ろしいヴィジョン。
淡々とアップルパイを食べながら、アースはジワジワっとかぼちゃんを攻めていた。
「ど、どうしたの??急に震えだしたけど……治療魔法かけてみようか?」
「※ ※ ※ ※ ※!!!!」
心配そうな顔でシイラが掌をかぼちゃんの頬の部分に近づけると、その身体に電撃が走った。
その強さは電撃バチバチレントゲン映像級。
同時刻にファルシエールの指先が変な動きをしていたが、勿論シイラは気がつくはずがない。



「どうしよう……治療魔法も効かないなんて……」
息も絶え絶えなかぼちゃん。
電撃バチバチよりも、味わった事のない「恐怖」という感情にダメージを受けてしまったようだ。
「きっと遠い国から来たから疲れが出ているんだよ。ルナソル、今日はもうお客さんを帰してあげなさい」
「つかれてるですか……しょですか……かぼちゃん、あした……」
「明日ムリ!!今晩カエル!!!」
倒れそうな身体を起こし、必死に拒否。
これ以上の滞在は超ドMでもない限り無理だろう。



「ほぇ……かえっちゃうのですか……」
「帰ッチャウノデス!」
「しょれじゃ、おみやげです」
「オ土産!?」
ルナソルはごそごそと椅子にかけてある袋からオレンジ色の物体を取り出し、それをかぼちゃんの前に置いた。
「かぼちゃんかぼちゃすきだからあげます」
その物体は、ミニカボチャに黒い絵の具で ●_● と描かれた……恐らくかぼちゃんヘッドを模した物だった。



「コレ……作ッタノカ?」
「あい、いちばんじょうずできたのあげます」
一番上手な割にはの大きさが不揃いだったり、水性の絵の具で描いた為に滲んで変な顔になっている。
お土産として頂くにはあまり有難くないものだ。
正直、アースも「微妙…」と思った。
しかし、
「アリガトウ……魔法ノ呪文……教エル……」
「えっ!?」
ビビって散々どう言うか迷っていたのに、突然の思い切りにアースは困惑した。
「うわぁーい!!すてきなまほーだ!!」
かぼちゃんは大事そうにミニカボチャを服の中に入れると、ゆっくりと話し始めた。



「1回シカ使エナイ魔法。今晩、オ月サマニ”トリック・オア・トリート”ッテ大キナ声デ言ウンダ」
「とりこあとりと??」
「(早速間違えてる……)」
「ソレデモイイ……今晩、1回ダケダカラ。チャント憶エテオクンダゾ」
「(呪文なのに間違っててもいいんかい!!)」
「あい、わかりました。ありがとごじゃました」
「よかったわねぇ、ルナソル。かぼちゃん、ありがとう」
今のは何だったんだろうか?
子供が1人の時に教えるからこそ意味があるものなのに。
しかも、今の状況で下手な事をしたらどんな目に合うか分かるだろうに。
ぐるぐると考え込むアースの頭を、大きな掌がぽんぽんと軽く叩いた。



「今晩1回限りなんだ?なぁ、ルナ。ここに居る皆で一緒にその魔法を見せて貰ってもいいかな?」
「いーよ!!ねぇ、おとしゃま?」
「勿論!!今日は皆で泊っていって!!」
愛娘のお願いを断るはずもなく、ファルシエールは眩しい笑顔で即答した。
「じゃあ、そういう事で宜しく。カボチャさんはどうする?今晩帰るんだっけ?その前に用意が必要ならそろそろ帰った方がいいかもね」
「ハ?!ハァ、ソレジャ……サヨナラ……デイインデスカネ?」
つい先ほどまで「素性を話すまで帰らせんぞ!」という感じだったのに一体どういうこっちゃ?と、かぼちゃんは困惑していた。



「……そうね、遠い国に帰るんですものね。それなりに準備もいるでしょうし。ルナちゃん、お別れ言いましょうか」
「あい。かぼちゃんしゃよなら。またきてくだしゃい」
「真に受けてんじゃないボケェ!」とスーパー突っ込みを入れそうなメールディアが了解した事により、かぼちゃんは解放許可が確実に出たと理解した。
「ア、ハイ、ソレジャサヨナラ!!」
見た目に反して妙に恐ろしい集団の気が変わらぬうちにと、かぼちゃんはドロンと姿を消した。



「………」
元々かぼちゃんそのものに対しての関心が高くなかったファルシエールは別として、サイとメールディアが見逃した意味がアースには分からなかった。
「まぁまぁ、素敵な魔法とやらを楽しみに待ってましょーや」
「何か起きたら何とかしなさいよ」
「(考えがあるのはお父さんだけで、お母さんはお父さんに従っただけ………?)」



状況としては「なるようになる」で待機ということ。
「まほーのじゅもん♪すてきなまほー♪」
アースは少し冷めた紅茶を飲みながらボンヤリとルナソルのご機嫌な歌声を聞いていた。



そして、夜になった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「いまからすてきなまほーはじめます!」
拍手を貰って嬉しくて仕方がないルナソルは、ウキウキしながら窓に手をかけた。
「アース、ルナソルの隣りに居てくれる?」
ちょっぴり心配をしているシイラがコソっと耳元で囁くと、アースは小さく頷いてルナソルに近づいた。
「ルーひとりでできるよ」
1人で魔法を使う所を皆に見て欲しいという気持ちは分かるが、それはあまりに危険なギャンブルだ。
「僕は何もしないから。近くで見ていていい?」
「しょれならいいよ!」



仕切りなおして、いざ、魔法スタート。
窓を開けて、すぅっと大きく息を吸って。


「とりこあとりーと!!」


夜空にぽっかりお月さま。
呪文を叫んでも何か起こる様子はない。
「…………」
「…………」
「…………あれぇ?」
「(カボチャヤロウ、嘘つきやがったのか!!)」
普段は半開きの目を見開いてアースが見上げると、夜空にモヤモヤとパステルピンクの煙が漂い始めた。



「ねぇねぇ、あれまほーかな?まほーかな??」
「う、うーん……」
よく分からないが、後ろで控える大人達が誰も警戒していないから危険ではないモノのようだ。
ただ、あのモヤモヤはこの世界のモノではないのは確か。
この世界ではないとなると……
「くもになったよ!!ふぁふぁのわたあめみたい!!」
「本当だ……」
モヤモヤは徐々に一箇所に集まり、パステルピンクの雲に形を変えた。



「おいししょだね……」
だらーんとヨダレを口の端から流すルナソル。
「そうだね」
美味しそうな雲を出すのが素敵な魔法?
やりたい事が意味不明だがルナソルがそれなりに喜んでいるからまぁいいやと思った瞬間、ルナソルの目がまんまるになり窓から身を乗り出した。



「ルナソル?!」
「くも、くも、くも!!!」
慌ててファルシエールが抱き上げると、ルナソルは興奮して空を指さした。
「雲………?」
不思議なパステルピンクの雲は、身震いするようにモニョモニョと動きそして……
『 ぽ わ ん ! 』
気の抜けるような音と共に、雲から何かがバラバラと落ちてきた。
「おしょと、おしょといく!!」
「あ、うん……」



急いで外に出た4人の大人と2人の幼児。
その頭上に振ってきたのは、
「飴?!」
色とりどりの飴だった。
「あめのあめだよ!!すてきなまほーだよ!!」
バンザイしながら跳ねまわるルナソル。
飴が降ってきて嬉しいだけではなく、初めて魔法が成功した喜びでいっぱいなのだ。



「すごいなぁ、ルナ。こんな魔法、俺だって使えないよ」
「えへへっ、ルーやったよ!!」
ルナソルの頭を撫でながらサイがチラッと雲を見上げると、何もないはずの場所からカサッと何かが擦れる音がした。
「………お父さん」
「アースもすごいと思うよなぁ?」
何かを言おうとしたアースにパチンと片目を閉じるサイ。
「あ、うん……すごいね、ルー。びっくりした」
「しょなの?アースびっくりした?わーい!!かぼちゃん、ありがとー!!」



飴の雨は10分ほどで止み、パステルピンクの雲はモヤモヤ煙になって消えていった。
その晩、煙を飛ばした風に乗って不思議な歌が門の世界を通り抜けた。


「とりこあとりーと♪とりこあとりーと♪魔法ノ呪文ヲ唱エテゴラン♪」









その夜、遅く。


「遅くに悪かったなぁ」
「いえ、僕の方こそ。待たせてごめんなさい」
「うふふっ、ルナちゃんが興奮してなかなか寝付かなかったんでしょう?」
「はい………」
やや疲れた顔で部屋に入って来たアースは、サイとメールディアの間に半ば無理矢理座らされた。



「結局……アレは何だったの?」
「オバケの世界から来た迷惑な生き物です」
「オバケの世界の住人は、他の世界の住人を驚かしたり迷惑かけるのを生業としてるんだ。そういう風習なんだから強行して止められないのが参っちゃうよなぁ」
「オバケの世界……世界も色々あるものね。それで、今回のショボイ事件の犯人はカボチャさんだったというのは分かったけれど、あの子は何をしたの?」
ファルシエールは既に興味を無くしているから「もう居なくなったからいいんじゃん?」で済ましてしまいそうだが、これから先に同じような事が起きた時の為に事件の記録は残さなければならない。
何だかんだ言っても仕事に真面目なメールディアは、事件の中身を知らなくてはならないのだ。



「先ず、子供が1人の時を狙って声をかけます。そして、好きなお菓子を聞き出し、「好きなお菓子が現れる魔法の呪文を教えてあげる。但し、この事は誰にも話してはいけない」と約束させます」
「あら、でもアースは夜に呪文を唱えたら何か起きる事を手紙で私に教えてくれたわよね?」
「僕は「両親に話さない」とは約束しただけです。文章で教えても約束違反にはならないです」
「まぁ、そうだよな。約束っていうのは契約と同じだから、する時は逃げ道を作っておくもんだ。アース偉いぞ!!」
褒められた事ではないのだが。



「子供たちは約束を守って誰にも話さず、夜になったら呪文を唱えます。トリック・オア・トリート……ある世界での意味は「おかしをくれなきゃいたずらしちゃうぞ」です。呪文の後にお菓子が現れて子供たちは喜んでそれを口にします。その事によって約束……本当の契約が結ばれます。「おかしをあげたからいたずらしちゃうぞ」というとんでもなく迷惑な契約です」
「そして、ショボイいたずらをしてカボチャさんは去っていく。ご丁寧に子供達の記憶を消して……って訳ね?」
「はい」
話を聞いてみると、かぼちゃんは実に運がよかったと思える。
相手にした子供が素直な子ばかりだったから上手くいっていただけで、たまたまが12回も重なったのだ。
こんな強運は滅多にない。



「ねぇ、お父さん。気になってた事があるんですけど」
「ん?」
「どうしてあの時にカボチャを逃がしたんですか?」
ショボイ事件とはいえ犯人には違いない。
真相を本人に吐かせるまで解放しないのが普通だろう。
それに、本当に逃げてしまったら「ルナソルのすてきなまほー」はどうするというのだ。



「ルナが呪文を間違えて言った時、カボチャさんは「それでもいい」って言ったろ?呪文っていうのは一言一句間違えちゃいけないものっていうのは常識じゃん。だから、カボチャさんの呪文は魔法的な現象が起きるための合図なんだって思ったんだ。オバケの世界の住人は夜を力の源とするんだけど、夜の王様っていえば月だよね?月に向かって呪文を言うのは、合図の時に月から力を貰うためなんでしょ、きっと」
「あぁ……そうですね。でも、カボチャが約束を守らなかったら……守る義理なんかないんでしょうし……」
「守るよ。カボチャさんはルナにお礼がしたかったんだから」
「お礼?」
とんでもない目に合わされてお礼も何もないはずだが。



「カボチャさんは、誰かに物を貰った事があんまりないんじゃないかな。だから、ルナが作ってくれたお土産が本当に嬉しかったんだと思う。それで、よその世界から飴の雲を持ってきちゃうくらいのお礼をしたんだよ」
「よその世界の飴の雲……あっ!!あの曇って、お菓子の世界から来たのか……」
「お菓子の世界なんていうのもあるの?あら、だったらあの雲って食べられたのかしら」
「かもね。今度取ってきてみようか」
簡単に言うサイに、アースとメールディアは顔を合わせて笑った。



「……というわけで、お母さん、事件は大体分かりましたか?」
「ええ、有難う。後は私が何とかしておくわ」
「はい。それじゃあ僕は戻りますね。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ぴょこんと椅子から飛び降りて、アースは足早に部屋を出ていった。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「やっぱ魔道院的には逃がしちゃマズかった?」
「別にいいわよ。お仕置きは散々受けたんだし」
アースやファルシエールのお仕置きは、少し気の毒になるくらい恐ろしいものだったが。
「アースとファルって意外に似てるよなぁ」
「………血って恐ろしいわ」
怒った時の性格の裏返りっぷりが似なくても……と、頭を痛めるメールディア。
普段がノンビリでボンヤリなだけにギャップが激しい。



「でもさ、ファルに似てる分、俺よりは性格いいって事じゃん?よかったよかった」
「昔よりは性格が丸くなったと思うわよ。赤の他人の言葉を信じてあげちゃうんですもの」
メールディアの言葉に無言で微笑むと、サイはポケットから飴を取り出し口に放り込んだ。
「メーデも信じてあげたじゃん」
「私は貴方を信じただけよ」
「あらら、嬉しい事言ってくれるのネ」





その後、変なイタズラが発生する事はなくなった。
しかし、時々「変なカボチャが夜空を飛ぶのを見た」という報告が魔道院に入るようになったという。



「懲りないわねぇ」










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