誕生日



「ハッピーバースデー、ホムラ」
「ありがとうございます」
14回目の誕生日を寮生達が祝ってくれる。
14年、僕は未だ「彼女」に会えていない。



2時間程続いた誕生会が終わり部屋に戻ると、沢山のプレゼントやカードが届いていた。
その中から1枚のカードを選んで中を読む。
動物やお菓子のシールが沢山貼られたカード。
妹の有希と弟の望からだ。


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おにいちゃんへ

おたんじようびおめでとう
いつぱいけーきたべてね


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カラフルなクレヨンの字がカードいっぱいに書かれている。
小さい「ょ」とか「っ」とか書けてない所とか内容が何とも和む。



他のカードとプレゼントは週末にでも自宅に送ってしまおう。
あまり広くない部屋を狭くしてもいられない。



妹と弟からのカードを枕元に飾り、ベッドに寝転がって窓の外の空を眺める。


この国にも「彼女」はいないのだろうか。
あとどれ位経てば、僕は「彼女」に出会えるのだろうか。


夜空の星の数ほどに世界には人が居て、
その中で唯1つの輝く星を探す僕。
会えば絶対に「彼女」だと分かる確信があるから、今まで会ってきた何千という人の中に「彼女」は居ない。


僕の中の「僕」が求める「彼女」。
花のように愛らしく、
鳥のように綺麗な声で歌う。
春の雨のように優しく、
夏の空のように爽やかで明るい。


「だいすき、ずっと、ずっと」


「僕」の腕の中で笑う「彼女」。


「僕もだよ。今も昔もこれからも、ずっと、大好きだよ」


「彼女」を抱いて笑う「僕」。


1番幸せだった頃の記憶。
その幸せが永遠に続くと思っていた頃の記憶。







「おめと!!」
キラキラの笑顔でクレヨンで何やら描かれた画用紙を手渡してくれるルナソル。
「ありがとう」
大きい赤と青のグルグル丸とその間に紫の丸。
幼児特有の表現・・・うーん・・・
「ファルと私とルナソルなんだって」
ね?とシイラが尋ねると、にこにこ笑いながら首を縦に振っている。
・・・・・流石、僕たちの娘。
犯罪的にきゃわゆい。
「おかあさんとルナソルとおとうさんは仲良しだからね。ほら、絵と同じにくっついちゃおう」
シイラとルナソルをぎゅっと抱き寄せると、2人は揃って耳に心地よい笑い声をあげた。




「はい、どうぞ」
少し前にルナソルは眠ってしまい、イチャイチャ夫婦の時間。
甘いロイヤルミルクティと生チョコレートケーキがテーブルの上に置かれる。
「ありがとう」
ふわぁっと紅茶のいい香りが周りに漂う。
落ち着くなぁ・・・


「今年も一緒にお祝い出来て嬉しいな。あ、でも・・・・・・」
少しショボンとした顔で笑うシイラ。
「そんな顔しないで。僕は、家族に・・・シイラとルナソルに祝ってもらえる事が何よりのプレゼントなんだから」
「うん・・・・・」
彼女はその他大勢が勝手に開催してくれようとした僕の誕生会に僕が行かないのを気にしているみたいだ。
(まぁ・・・誕生会なのに祝われる人が居ないのも何だそりゃって感じだよね)
ここ最近毎年の事だから自分でもいい性格してると思うけど、その他大勢もいい加減に分かってくれてもいいものを。


「気にしてくれてありがとう。でもね、大人げないって分かってるけれど今日は僕の誕生日だからこそ僕の一番を優先させて欲しいんだ。だから・・・」
頬を寄せて軽く口づける。
「傍に居て。欲を言えば、べったべたにくっついてシイラからキスしてくれたりしたら嬉しいな?」
「う・・・・・・うん」
よっし!
頷いたぁ!!




「おたんじょうびおめでとう」




腕の中にある僕の世界。
ふんわりと香るイチゴの香り。
そして、唇に広がる柔らかくて暖かい感触。




「来年も、こうしていようね」




1年に1度。
何にも代えられない奇跡の時間。
来年も、再来年も、ずっと・・・・・







誕生日から1ヵ月と少しが過ぎた。
イギリスでの留学もそろそろ見切りを付けたいし、今後の件について父さんと話し合う為に僕は久しぶりに日本に帰国してきた。


「久しぶり・・・という挨拶も何だかおかしいね。おかえり、ホムラ。やっぱり双子たちの予想は当たるんだねぇ」
「ただいま、母さん」
「今、お客さんが泊まっているんだよ。コウの知り合いの娘さんなんだけどね、かーわいい子なんだ。双子たちもすっかり懐いちゃってね。客間に居るから挨拶しておいで」
「はい」
父さんの知りあいのお嬢さん?
家に泊まりに来るくらい親しい知り合いなんていたんだ・・・
それに、有希と望が懐くなんて珍しい。
どんな人なんだろう・・・??


「失礼します」
客間のドアをノックして声をかけてみたけれど返事がない。
仕方なくそっと中に入ってみると、女の子(僕と同じくらいの歳?)が1人・・・・・あっ!!


「大丈夫ですか?」
ぐらりと上体が揺らいで倒れそうになったその子の背中を支え、声をかけてみる。
・・・・・返事がない。
気を失ってしまったのかな。
ふわぁっとイチゴの香りが微かに鼻をくすぐる。


「大丈夫ですか?」
「あ・・・いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます」
心配になってもう1度声をかけると、少しボンヤリとした感じで返事があった。
うわぁ・・・・・か、可愛い声だ・・・
声を聞いただけでこんなに胸がドキドキするなんて初めて。


「「すいちゃん、どうしたの?あ、おにいちゃん!!」」
部屋に入ってきた有希と望が僕を見上げる。
すいちゃん??
彼女の名前は「すいちゃん」っていうのか。
どんな顔してるのかな。
覗きこんだりしたら失礼だよね・・・


暫くすると彼女はモゾモゾと動いて僕の方を見た。
薄茶色のふわふわとした長い髪。
たまご型の顔に小さめの鼻と口がバランスよく配置されてる。
そして何より藍玉の澄んだ大きな瞳が印象的。


確かに可愛い・・・というか、胸のドキドキがどんどん強くなっていく。
こんなの初めて。
彼女は・・・


「どうしましたか?」
2人で見つめ合っているのも何だか恥ずかしいので声をかけてみた。
「いや、キレイだなぁって思って・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
え・・・・と。
顔の事を色々言われるのは好きじゃないけど、彼女に言われると悪い気がしない。
「ありがとうございます。貴女みたいに可愛い女の子に言われると嬉しいですね」
「・・・・・・・え?」



「おにいちゃんのえがおをみるとみんなめろめろになっちゃうの」
「きらーすまいるなんだよ」
「そんな事ないよ。有希も望もオーバーなんだから」
「すいちゃん」が固まってしまった。
いけないいけない。
つい、自然に笑みがこぼれてしまった。
何だかよく分からないけど、作り笑いじゃない笑顔は普通の人に衝撃を与えちゃうんだった。



「・・・・・・自己紹介が未だでしたね、東雲焔です。弟と妹が仲良くしてもらってるみたいですね。ありがとうございます」
「私の方こそ遊んで貰ってるって感じで・・・すごく可愛くていい子達ですね。あ、私の名前は水波粋です。何だか縁があってこちらにお世話になってます」
右手を差し出すと小さな手が握り返してくれ・・・
「っ・・・・」
指先が手に触れたその瞬間、電気のようなものがバチっと発生した。
そして・・・・・
「すみません・・・手・・・」
「あ、ううん、全然何ともないです。ちょっとビックリしちゃって・・・」
右手をジッと見つめていると、頭の中で幾つかのパーツがはっきりとしてくるのが分かった。



彼女は・・・・・「彼女」だ。



「焔、此処に居たのか。さっきの話なんだが・・・」
父さんの声でハッとする。
「彼女」が此処に居ると分かった以上、これからの道は決まった。
「今、父さんの部屋に行きます。それじゃあ、水波さん、ゆっくりしていってくださいね」
「ねぇ、東雲くん」
「はい?」
「又、会える・・・よね?」
「・・・・・ええ」
又も何も。
これから是非とも頻繁に会いたいし、会いに行きますとも!!




今の感じだと彼女は「僕」の事が分かっていない。
でも、きっと・・・・・




来年の僕の誕生日。
僕はきっと、1人じゃない。
きっと・・・・・・・・絶対。









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