いれかわリング・完結編





「うーん、やっぱり自分の身体はしっくりくるわねぇ。ホリーさんの身体も可愛くてよかったけど♪」
「は……はぁ……ところでこの服は……」
「ホリーさんに似合うでしょ?可愛い子が可愛い格好するのって世の為人の為よね?だから、ア・ゲ・ル♪」
「あ……ありがとうございます……」
プルートとの買い物で別れた後に購入したのだろうか。
試着した憶えもない服装に困惑しながらホリーはお礼の言葉を言った。



「メーデの身体から戻ると私ってチビッ子だって再認識するなぁ」
「シイラはその身長で丁度だと思うわ」
「結局の所、器と中身は一番相性がいい組み合わせになっているんでしょうね」
「そうね。これからは自分達の身体を今まで以上に大事にしてあげなくちゃって今日は改めて思ったわ。心身のバランスが取れていないと、いざという時に力が発揮できないし」
「そうだよね、メーデはお客さま対応がいつ発生するか分からないんだもんね!」
メールディアの身体でお客さま対応を実際に経験したシイラは「うんうん」と頷いた。
まさかそのいざという時が「サイと手加減なしでバトルする時」とは夢にも思っていない。



「うふふっ、今日は楽しかったわ。又、3人で遊びましょうね?」
「はい」
「もっちろん!」
うふふ、あはは、と笑いながら解散する女子3人。
そして彼女達はそれぞれの日常に戻っていくのであった。


いれかわリング ・ 【完】












「なーんて終わると思ったら大間違いですよ!」
「ファル……何処に向かって何を言ってるの?」
「どしたですか、おとしゃま?」
「気にしないでいいんだよぉ、シイラぁ、ルナソルぅ☆」
にょへらんとした締まらない笑顔のファルシエールは、ルナソルを膝の上に座らせシイラの横にピタリとくっついた。



「近過ぎるんじゃない……かなぁ?」
「あーんってするなら近過ぎるくらいの方がいいよ。ねぇ〜、ルナソルぅ?」
「むぅ。ルーはもうおおきいからあーんしなくていいです」
「えっ……?!」
ガビーン!とした顔で固まる父の気持ちなんて知ったこっちゃないルナソルは、テーブルの上のスプーンを手に取り熱く語った。
「あいすのあーんはすきなひとにして、ごはんのあーんはあかちゃんにします。ルーはあかちゃんじゃありましぇん」
一体何処でそんな差別化が行われたのか。
ルナソル的不可思議思考である。



「ち、違うんだよ、ルナソル。ごはんのあーんも好きな人にしていいんだよ!!」
「必死だね…」
目から血の涙を流しそうな勢いに、愛する夫とはいえ「これはどうだろう…」と思ってしまうのは仕方がない。
「ほぇー?どしてですか?」
「そ、それはね………」
ファルシエールの頭はフル活動でもっともらしい事を考えた。
恐らく、最近のどんなお仕事よりも真剣に。



「自分で美味しいなぁって思ったものは好きな人にも食べてもらいたいでしょ?おすそわけ……そう、おすそわけだよ!」
「おすしょわけってなんですか?」
「自分の持っている物を人に分けてあげる事よ」
「しょかしょか。ルーとアースはおやつをいつもおすしょわけしてるですね!」
「そうだね、そんな感じ」
意味が脱線したが物凄く大きく捉えりゃ問題ないじゃん!と思ったファルシエールは「うんうん」と頷いた。



「しょれならあーんしてもいいです。ルーはおとしゃまとおかしゃまだいすきだからごはんおすしょわけです」
新しい大人言葉「おすそわけ」を習得したと思いこんだルナソルは上機嫌でピッカピカの笑顔を見せた。
「じゃっ、そういう事で!いただきます♪」
「いただきます」
「いただきます」
「………」
「………」
「ねぇねぇ、どしてごはんたべないですか?」
スプーンを手にお互いを探りあっている両親にルナソルは首を傾げた。



「え……っと……ルナソル、あーん」
「あい!」
「あーん」をしてあげるべきかしてもらうべきか考えあぐねた結果、シイラは逃げともとれる行動に出た。
これでは何のヘンテツもないホカホカ家族である。
当然、ファルシエールはガビーン!!と固まった。
因みに頭の上にゴシック体で『マ ジ で ー !?』と大きく表示されているような表情をしている。
そんな父の様子を気にもせず、ルナソルは傷に塩を塗るような行動に出た。
「おかしゃま、あーん」
お返し「あーん」である。



「「あーん」で食べるにはちょっと多いかなぁ?」
「おかしゃまのごはんおいしいからいっぱいたべて!」
「うふふっ、ありがとう。それじゃあ頑張って食べちゃおう!」
口いっぱいに食べ物を頬張ってモグモグとする様子は小動物のように愛らしい。
意識を宇宙に飛ばしかけていたファルシエールはすぐさま元の身体に意識を戻し、心のアルバムにその様子を保存した。
「それじゃあルナソル、あーん」
「あい!おかしゃま、あーん」
2人の間でのみ繰り返される「あーん」。
十数ターン後、お互いの皿が空になりお腹がいっぱいになった時、ようやくシイラは現状を把握した。



「あ………ファル………」
「おとしゃまごはんたべてないです!」
そりゃそうなのだ。
元々シイラ&ルナソルに「あーん」で食べさせて貰う気満々だったのだから。
「2人が美味しそうに食べてるのを見ていたら自分で食べるのを忘れてたよ」
「ううう〜、待たせちゃってごめんね?はい、あーん」
「ルーも!ルーもあーんします!」
「ふふっ、2人ともありがとう♪」



かくして、「あーん」な夕飯はつつがなく終了したのであった。



「ルーはアースがいちばんだいすきだから、あしたからあーんしてあげます!」
「!?」
そして、何も知らないアースは毎度の如く自由人親子のゴタゴタに巻き込まれいらぬ苦労をする事になるのであった。







「なぁ、アース」
「何ですか?」
「お父さんはね、アースが男の子でよかったなぁってつくづく思ったよ」
「………はぁ、そうです……か」
そこは喜ぶべきなのか何なのか。
流石の天才児も正しい答えが何たるか分からなかった。



「もしアースが女の子だったとしてさ、お母さんに超似てる子だったりしたらさ、それはそれで嬉しいけどお父さんはお母さんか娘さんのどちらかを毎日怒らせていたと思うんだよね。どうもお父さんは女の子の気持ちを分かってあげられないみたいで」
「そんな事ないと思いますけど…」
息子の目から見てもサイはカッコイイ。
女の人はお父さんみたいな人が好きなんじゃないかなぁ?と密かに思っていたりする。
基本的に親切で優しい爽やか好青年のサイは、ちょっとした言葉や態度で女子のハートをきゅんきゅんさせる事が出来てしまう。
ただ、本人は無意識でやっているといういわゆる天然タラシなものだから始末に悪い。



「そんな事あるわよ?」
突然の登場やその場に居ないのに話の内容を理解しているのはいつもの事だけど、ドキドキしちゃうから一声かけてくれればいいんだけどな……と、アースはちょっぴり思った。
「お父さんはね、無神経な事が一番お母さんを怒らせるの」
ニコニコニコニコ。
お子様達の前では見慣れた優しい笑顔だが、背後から冷たい風が吹き荒れている。



「え?え?何で?又、怒らせた??」
「別に。怒ってなんか、いませんけど?」
「(僕もよく分からないけど機嫌は悪いと思う……)」
両親の顔を交互に見てアースはそっと部屋を出て行き、ポケットに入っていた宝石が何種類か付いたカードを取り出した。そして、薄い青色の宝石をポチっと押しカードに耳を近づけ話し始めた。



「こんにちは、アースです」
『あぁ、こんにちは。今ルナソルに替わるわね?』
「あ、いえ、シイラさんにお話し……というかお願いがあるんです」
『私に?なぁに?』
「突然で申し訳ないのですが、今晩お泊りに行ってもいいでしょうか?夕飯は済ませてから行きますので…」
『勿論、構わないよ。ルナソル、アースがお泊りに来てくれるって!』
『うわぁーい!ねぇねぇ、ルーもアースとおはなししたいです!』
向こう側の会話、丸聞こえである。



『アースおとまりくるんでしょー?』
「あ、うん。ごはん食べてからお家に行くね」
『いっしょおふろはいろうね!いっしょアイスたべようね!アイスあーんしようね!』
「うん、分かった。それじゃあ、後でね」
お風呂でアイスなのか、お風呂後にアイスなのか。
よく分からないが大勢に影響はないと思いアースは流した。
ルナソル的重要ポイントの「アイスあーん」は最近恒例になっているのでこれまた流した。
『あい』
カードから耳を離すとアースは軽く息を吐き出し両親が居る部屋に戻った。
事後報告だが今晩はルナソルの家に泊りに行くと言わなくてはならない。



「(一晩で仲直りするよね)」
気まずくならない為にはちゃんと話をした方がいい。
でも子供が居たら話したい事も話せない。
………と考えお泊りに行く事にしたアース。
天晴過ぎる気のつかいようである。



「(お父さんは何でも出来るし何でも知ってるのに、どうしてお母さんにだけは問題アリなのかなぁ?)」
それはお父さんがお母さんの事を大好き過ぎて色々見えていなかったりするのと、普段はオトナでドライでなかなか本心を見せないお母さんがお父さんに対してのみビミョーな本心を見せるからなのだが、アースといえどもそこまでは分からなかった。
「(でも、お母さんにまで完璧になっちゃったらお母さんも面白くないだろうからこれでいいのかも)」
困った顔をしながらお父さんが一生懸命話しかけてくる様を不機嫌そうに見ているお母さんは、何となく不機嫌そうな「ふり」をしているような気がする。
独特なコミュニケーションに「やれやれ」と思いながら、アースは2人に話しかけるタイミングをうかがった。



翌朝。
ブレイズ家の朝食の場にて「アースはいちばんだいすきだからあーんなのよ」事件が発生しアースは又もやいらぬ苦労を背負わされる事になるのだが………それは別の話。







「お待たせしました。少し狭いかもしれませんが、中へどうぞ」
「お、お邪魔します」
ホリーが部屋着に替える間外で待たされていたプルートは、倒れそうな自分を必死に励ましていた。
女性の住んでいる部屋に入るのは初めて。
初めてなだけでも緊張しているのに、それがホリーの部屋なものだからピュアピュア純情ハートはバックバクで緊張感最高潮なのだ。



「すぐそこが手洗いです。30分くらいで用意が出来ますから、あっちの部屋で本でも読んで待っていて下さい」
「あ、うん。何か手伝おうか?」
「ありがとうございます。でも、今日はお客様なのでいいですよ」
「じゃ、じゃあ……」
案内された部屋で所在なくソワソワと座り周りを見ると、独身女性の部屋にはあまり無さそうな物が目に入った。



ほ り ー さ ん
お た ん じ よ う び お め で と う 



画用紙に大きく書かれたうまへたな幼児の字はルナソル、押し花を画用紙に綺麗に並べて貼ったのはアースだろう。
「愛されてんなぁ、ホリー」
「はい?」
プルートがぎょっとして振りかえるとサラダボウルを持ったホリーが訝しげな顔をして立っていた。



「あ、あぁ、これ、ルーとアースから?」
「はい。とってもお上手ですよね」
「2人ともホリーに懐いてるんだな」
「そうだと嬉しいです。とってもお利口で可愛らしいんですもの、お2人を見ているとつい笑顔になってしまいます」
「ふぅん………こんな子供が欲しい〜とか思ったりすんの?」
「………まぁ、時々は。何ですか、自分で聞いておいてそんなに意外そうな顔をしますか?」
「ご、ごめん。今まで聞いた事がなかったから……でも、ホリーの子って可愛いだろうなって思うよ。それで、可愛い顔して小難しい事を話しそう。ちっちゃい頃のホリーみたいに」
「褒められているんだか何だかよく分かりません。それに、結婚もしていないのにする話ではありませんでしたね」
そう言ってサラダボウルをテーブルの中央に置くと、ホリーはキッチンへと戻って行った。



「けっこん……ホリーも結婚とか考えるのかな。ホリーは多分あのサイとかいう上司の男が好きみたいだけど、アイツって妻子持ちだろ?ハード過ぎるっしょ……っつか、何でボクじゃ……」
「独り言が多いですね。大丈夫ですか?」
「わぁっ!?」
スープの入った小ぶりの鍋をテーブルの隅に置くとホリーは眉を寄せ心配そうな声でたずねた。
「驚かせてしまったようですね、すみません」
「い、いや、大した事じゃな……くもない……けど……兎に角、だいじょぶ、大丈夫」
「そうですか。でも、何か悩んでいる事があったら遠慮しないで相談して下さいね?貴方は私の弟みたいな……って言うと怒るんでしたね、まぁ、ルナソルさん風に言うと「いちばんなかよし」だから力になってあげたいんですよ」
にぶにぶホリーはプルートの表情の変化に気付かなかった。



「……じゃあ、聞くけどさ」
「はい?」
「ホリーはあの人……サイって人が好きなの?」
「は………?」
「…………答えてよ」
「………」
「………」
チ ー ン ☆

「あ、魚が焼けたみたいなので持ってきます。大分お待たせしましたが食事にしましょう」
「………あ、うん」
気まずい空気が機械音で断ち切られ、プルートは少しホッとした。
自分で聞いておいて何ともヘタレである。
「(でもまぁ………聞かなくても答えが分かっちゃった感じだけど)」
妻子持ちの相手に好意を持っているだなんて言えるはずがない。
そして真面目な性分のせいで嘘がつけない。
ホリーにとっては肯定も否定もしないのが「答え」なのだ。



「さ、プルート。座って下さい」
「うん」
「遠慮しないでどうぞ」
「うん、じゃあ、早速」
ミネストローネを一口飲むと、プルートはニッコリと笑った。
「うん、美味しい。ノースガルドの味だ。中央の生活が長くても全然変わってない」
「ふふっ、そうですか。そう言って貰えると嬉しいですね」
「これだけの料理なのにすごい短時間で出来たね。作りおきとか出来なそうなのに」
「スープの材料は下ごしらえしたものを冷凍しておいたんです。お魚は下味を付けてバジルオイルで焼いただけです」
「すごい。働いてるお母さんみたい」
「何ですか、その例え」
暫く無言で食事を続けると、ホリーの方が口を開いた。



「先ほどの話なのですが」
「料理の?」
「違います。私がセンセイ……サイさんを好きなのかという話です」
「っ……」
まさか、まさかホリーがその話を蒸し返してくるとは。
プルートは聞き間違いか夢かと思い自分の耳を引っ張った。
「何やってんですか、人が真面目に話そうとしてるのに」
「ご、ごめん。えと……続けて…ください……」



「好きか嫌いかで言えば好きです。私は普通の人と感覚がズレているのでよく分からなかったのですが、初恋でした」
その言葉にプルートはHPゲージが真っ赤になるまで削り取られていった。
「恋人がいると分かっていても、彼女以外の誰も彼の心には入っていかれないと分かっていても、私は自分の気持ちを完全に捨て去る事が出来ませんでした。その気持ちに未来はないのに、自分でも愚かだと思います」
「それだけホリーは真剣に好きだったんだよ。本当に大事でかけがえのない気持ちは、捨て去る事なんて出来ないよ」
「………貴方にこんな風にフォローされるとは思いませんでした」
「意外そうな顔で言われるのはなぁ……ボクだって好きな人がいるから言ってるんだけど」
「はぁ、そうですか」



そして無言で食事を再開。
「(あれっ?!何かホリーに流されたけど、今のって千載一遇のチャンスだったんじゃない?!)」
気付くの遅すぎである。
「ほ、ホリー?あのさ、ボクが誰の事好きなのかって気にならないの??」
「私の知らない人でしょう?聞いても分かりませから残念ながら協力しようがありません」
「いやいや、知らない人ってどうして限定するかな……」
「では、知ってる人ですか?まさかル……」
「何度も言うけどルーじゃないから。童顔は好きだけどロリじゃないから」
ホリーは半分本気で「プルートはルナソルの事が好きなのではないか?」と思っていたりする。
この世界では恋愛に実年齢の差はあまり関係しないが、プルートにとっては残念すぎる想像だ。



「童顔は好き………まさかシ……」
「シイラさんじゃないから。因みにそんな事言ったら消炭にされるよね?ボクは自殺願望はないからね?」
「ふぅ……私達の共通の知り合いと言われましてもね……地元も含めて結構いますから分かりませんよ。私に協力して欲しいならちゃんと教えて下さい」
ついさっきまでは聞く気もなかったくせに大した上から目線である。
「それじゃあ言うけど」
「はい」
「ホリーだよ」
「はい?」
「だから、ホリーなの。ボクはずっとホリーが好きだったんだ!」
言った!
とうとう言ったYO!
もう、ヤケになってる感じだけど言ったんだYO!
首から上を真っ赤にさせ、プルートは「どうだ!」とばかりホリーを見た。
………が、
「はぁ、そうなんですか」
ホリーの反応はあまりにアッサリとしていた。
まるで全然気にしてないかのように。



「え?あ?あれれ?話、聞いてたよ……ね?」
「えぇ。貴方が私の事を好きだと言ってました」
「う、うん。そ、それで?あの……ホリーとしてはどう思いましたでしょうか?」
「どうって………どうなんでしょうね。嫌われてはいないと思ってましたので、それなら好かれているのかな、と」
「全然違うから。意味が全っ然違うから!!」
「違う……違うんですか……?」
「もう、いいや。ホリーだもんね、今はこれでいいや。もう1回でも2回でもチャレンジするからね。次はもっとカッコよく言うから待ってて!!」
「はぁ……」
息まくプルートを何とも微妙な顔で見ると、ホリーは黙ってパンを口にした。



「今日はご馳走様。今度はボクがご馳走するからね!ちゃんと美味しそうなお店を調べておくよ」
「一応期待してます」
「………一応なんだ。じゃあね、連絡するからね!」
「はい、気を付けて帰って下さい」
ぶんぶんと大きく手を振るプルートを見送り部屋に戻ったホリーは大きな溜息をついて首を捻った。



「好かれているのではなく好き?まさか、プルートが私の事を恋愛対象として見ているはずがないですし……」
その「まさか」だと理解するには未だ時間が必要だが、プルート的には一歩前進のようだった。




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