いれかわリング・ホリー&メールディア編





「ホリーさんはシイラの姿で何かしたい事があるのかしら?」
「いえ……特にはありません。シイラさんにご迷惑をおかけしたら申し訳ないですし」
庭園に残った2人はこれからの予定を話していた。
「そんなに気にしないでも大丈夫よ。大抵の事だったら後で何とでも辻褄合わせ出来るから」
「はぁ……」
普通の人が言えば「大した自信だ」と思われるところだが、メールディアが言うと何だか納得してしまうのだから不思議だ。
ともあれ、成り行きで入れ替わった身としてはやはり「やりたい事は特にない」というのは遠慮でも何でもない事実だ。
ホリーが暫くぼんやりとしているとメールディアは嬉しそうに微笑んで言った。



「特にしたい事がないのなら、私と一緒にお買い物に行きましょう?シイラとホリーさんを同時にお着替えさせて遊ぶだなんて、私ってば何て幸福なのかしら!!!」
「お着替えさせて遊ぶんですか……」
今までも何度かお着替えで遊ばれた事があるが、ホリーはその時間が結構好きだった。
ちょっといいな、と思っていても手に取って着る勇気がなかった服を着せてくれたり、一緒にお子様達の服を選んだり……1人ではなかなか出来ない事を体験させてくれるからだ。
「じゃ、決まりー!!うふふっ、どういう服にしましょうか?ホリーさんって着痩せするタイプだから、思いきって露出の多い服とかにしちゃう?ちょっと研究院の男どもを誘惑してみちゃう?」
「そ、それは止めて下さい。せめて着るだけにしておいて下さい」
そんな羞恥プレイをされたら次の日から職場の人々に合わせる顔がない。
ホリーが不安そうな顔をすると、メールディアは優しく彼女の手を握って言った。



「ごめんなさい、冗談よ。私がホリーさんの綺麗な肌をアンポンタンな男どもに晒すわけないじゃない。覗き見されても潰すくらいの心意気でいるもの。本当よ?」
何を潰すかは不明だが、慈愛に満ちた表情で何だか物騒な事を言っている。
「でも、着てもいいのね?着るだけならいいのよね?」
メールディアにとっては自分で楽しめればそれでオッケーなのだ。
「は………はい」
ニコニコと笑う自分を目の前にホリーは何でもどんと来いと覚悟を決めた。







「グッジョブ、私!!」
ジャジャーン!!という音と共に試着室から出てきたメールディアはホリーの前でクルリと1回転をし、小首を傾げて「どう?」と可愛らしくたずねた。
「どうと言われましても……スカートの丈が短すぎるのではないかと」
「これ位いいじゃない」
「子供の頃でもこんなに短い丈だった事ありませんよ……」
「可愛いのにぃ。ほらほら、2人で並んだらお人形さんみたいっ!」
姿見に写っているのは少々お疲れ気味なシイラと、彼女と腕を組んで上機嫌のホリー。
どこかのアイドル歌手がデビューコンサートをするようなヒラヒラでフワフワなミニのワンピースを着た2人は、確かにお人形のように可愛らしかった。



「うーん……確かにシイラさんにはお似合いですね」
「なーに言ってるのよぅ!ホリーさんだってすごーく似合ってるじゃない。ほらほら、よーく見て?」
メールディアに迫られたホリーは少し顔を赤くし床に目を逸らした。
「何と申しましょうか………客観的にじっくり自分を見るのは気恥ずかしいです」
「もー、ホリーさんってばいちいち反応が可愛いんだから…………っ!?」
ホリーに抱きつきキャッキャと楽しんでいたメールディアは、ふと動きを止めチラリと天井に目をやった。



「どうしましたか?」
「………いいえ、何でもありません。今度はこんな服はどうでしょうか、『シイラさん』」
「え?え?突然……??」
戸惑うホリーに寄り添い、メールディアは手にした服を見せながらコソッと耳元に囁いた。
「(仕事サボって覗き見してるダメダメボーヤが居るの)」
「(覗き見!?)」
「(あ、周りは見ないで。気付かれるから。ふふっ………ちょっと遊んであげましょうか。ホリーさん、協力お願いね?適当に合わせて)」
「(はぁ)」
「私もこんな企み顔が出来たんですね」と思いながら、ホリーは小さく頷いた。



「そういえば、ファルシエールさんは今日はお仕事なんですよね?」
「え、ええ」
「残念ですね、一緒に服を選んで貰えたらきっと楽しかったでしょうにね」
「え、ええ」
とりあえずボロを出さないように言葉少なく頷くだけのホリーだったが、メールディアは上手い事会話に仕立て上げていった。
「なーんて、噂をしていたら本当にいらっしゃるかもしれませんね。ファルシエールさんはシイラさんの事を盲目的に愛してらっしゃるから」
「え、えー………そうー………かなー………」
挙動不審にならないように、ついでにシイラっぽい話し方をするようにホリーは必死だった。
因みに彼女の今までの人生に演劇という経験はない。



「そうですよ。羨ましいです、自分の事をそんなに愛して下さるなんて」
「そんなに言われたら………照れま………照れちゃう………よ」
再び天井を横目で見るとメールディアは小さくニヤッと笑った。
(ホリーは自分にこんな顔が出来ると知り、かなりビビった)
「でも、本当に今、此処に来られたら引きますよね?」
「え………と………」
どう答えたらいいのか迷うホリーにメールディアは更に言葉を続けた。
「与えられた自分の仕事を半端にして欲望のまま行動するのって、大人としてどうでしょう?」
「(ホリーさんはどう思う?)」と小声で言われ、ホリーはハッキリとした声でこう言った。


「最っ低!!です」


※ ※ ※ ※ ※



「くっくっくっくっ…………あー、もうダメ。おっかしー!!」
「………あれでよかったのでしょうか」
ついでに「私の横隔膜は大丈夫かしら?」とも思うホリー。
現在、メールディアはホリーの人生最高の笑いを体験しているのだ。
「いい、いい、最高よ。あの子ったら今頃死に物狂いで仕事してるわね。シイラも「お仕事している旦那」を見学出来て一石二鳥だわ」
「え、でも、メールディアさんの姿で職場に行ったら仕事を手伝わされたりしないでしょうか。今頃になってシイラさんが心配です」
「大丈夫よぅ。あの子は滅多な事で私に借りを作らないから」
笑い過ぎて出てきた涙を拭きながら、メールディアは断言した。



「ええと……滅多な事がないといいですね……」
「その時はその時よ。シイラだって伊達に最高位の能力者じゃないわ。それに………」
「それに?」
「ふふっ、これ以上は私らしくないから言ーわない。何とかなるわよ。何とかしなかったらお姉ちゃん本気で怒っちゃう♪」
「お姉ちゃん??」
「はいはーい!邪魔者は去った事だし、お着替えの続きをしましょ?次はねぇ、パーティ用のドレス!2人にって目を付けてたのがあるのよぅ♪さぁ、行きましょ、行きましょ、行きましょ〜♪」
メールディアの中で今の話は「終わり」になったようだ。
それを察し、ホリーはそれ以上何も言わずメールディアの後を追った。


※ ※ ※ ※ ※



「ねぇ、さっきのとどちらの方がいいかしら?」
光沢のあるレモンイエローのドレスを着たメールディア(何度もいうが見た目はホリー)は、白に近い淡いグリーンのふんわりとしたドレスと自分を交互に指さし尋ねた。
「あ、あの……選んで頂いて申し訳ないのですが、私はドレスを着てパーティに出る機会がないんです。でも、こんなに素敵なドレスを着せて頂き有難う御座います。本当に………嬉しいです」
「職場で強制参加のパーティがないのは羨ましいけれど、ドレスを着る機会がないっていうのはつまらないわねぇ」
魔道院はクリスマスに舞踏会を開催している。
1年に1回とはいえ朝から晩までファルシエールの相手をさせられるその日は、メールディアにとって憂鬱で仕方がない。(ファルシエールにとっても然り)
だが、根が真面目なメールディアは魔道院での自分達の役割を理解している為に毎年律儀に参加を続けているのだった。



「考えてみれば、私の人生にドレスって本当に無縁ですね。ノースガルドには舞踏会なんてないですし、ドレスを着るのは花嫁くらいじゃないでしょうか」
「花嫁になればドレスを着るって事よね?だったら無縁じゃないでしょう?」
「え…………っと、花嫁になる予定がないので………」
「ホリー!!……と、シイラさん?」
「プルート?!」
本来この場に居るはずのない者の声を聞き、ホリーは訝しげな顔で店の入り口を見た。



「(今はシイラになってるのよ。そんな顔したらプルートくんが困っちゃうわ)」
「(それでしたらプルートに状況を説明します)」
一歩前に出ようとしたホリーの腕を押さえ、メールディアの方が先に前へ出た。
「今日はどうしたんですか、プルート」
「(勘違いさせっぱなしで通すつもりですかー!?)」
「(だって面白そうじゃない。たまには幼馴染を客観的に見てみたら?)」
「(私はいつも客観的に見ているつもりですが……)」
メールディアの言っている事の意味がよく分からない。
それは今までも何度かあったが、今回はホリーの中で何かが引っかかったような気がした。
分からない、分かろうとしない?



「今日は講習会で中央に出て来たんだ。お土産を買って帰ろうと思ってブラブラしてたらホリーの姿が見えたからさ」
「貴方は本当に考えなしですね。見間違いだったらどうするつもりですか、何度も言いますが後先を考えて行動しなさ………」
脇腹を小突かれホリーはハッとした。
「そ、そうそう、そう言おうと思っていたんです。普段からよくプルートの話をするから予想出来てしまいましたか?流石シイラさんです」
「え?あ……そうなんだ。普段からよく僕の話をするんだ……えへへ……」
「ちっ………」
否定しようと口を開いた瞬間、ホリーはメールディアと目が合った。
そして、よく見慣れた自分の顔の奥に潜む感情をバッチリ読み取ってしまった。
「(やっぱり、楽しんでますー!?)」



「そういえば。ねぇ、プルート」
「何?何、何??」
「今、シイラさんにも聞いていたのですが、私にはどちらのドレスが似合うと思いますか?」
「ど、ど、どっちもすごく似合ってるよ。綺麗だなぁ、お姫様みたいだ」
普段はなかなか拝む事が出来ないホリーから自分への超優しい微笑みに「その他諸々雑多な事は気にしな〜い」という状態になり、頬を桃色に染め照れ照れと答えるプルート。
その様を見てメールディアは更に話し続けた。



「質問を変えますね。貴方は私にどちらのドレスを着て欲しいですか?」
「それは………えと………」
「………」
「………」
モジモジとしながらメールディア(何度も何度もいうが見た目はホリー)とドレスを交互に見るプルートは、どちらかというと女顔である事もあって成人男子とは思えないほど愛らしい。
「プルートくん………可愛いお洋服には興味ないかしら………」
「へ?」
「ちょ、ちょちょちょっとそれは………」
愛らしい生き物に弱いメールディアが変な事を言い始め、ホリーは焦った。



「だーって可愛いんですもの。ホリーさんとセットで並べたら、きっと1日眺めていても飽きないわ……」
「………ホリー?」
「こんな顔でもプルートは男ですから勘弁してあげて下さい」
「シイラさん?」
「残念ねぇ。ちっ………どうして私の周りの男共にはこういう可愛い子がいないのかしら」
「ホリー??」
「プルートが可愛いのは顔だけです」
「シイラさん??」
「あ、ごめんなさいプルートくん。私、ホリーさんじゃないの」
「このタイミングで明かしますか………。混乱するのも仕方ありませんがホリーは私です」
2人の顔を交互に見ながらプルートの頭上に浮かんでいたハテナマークが、一気に大量生産された。



「幻覚?…………って、痛っで!!」
「幻覚魔法ではありません。大人しく私の話を聞きなさい」
「ふぁ………ふぁい……」
遠慮ない力で頬を抓り上げる感覚は確かにプルートがよく知るもの。
にわかに信じ難いが、身体はシイラ=ホリーと告げている。
「失敗、失敗。もう少し遊びたかったのに」
「正直、精神衛生上これ以上は無理だと思います」
「ふぇーー!!はなひひくひゃらひゃなしふぇー!!(話聞くから放してー!)」
「あぁ、すみませんでした。それでは説明をしますから、ちゃんと話を聞くように」
「はい……」
素直に頷き大人しくなるプルート。
ホリーの命令に対して周りの涙を誘うほど従順である。







「へぇ〜、そんな事が出来るんだぁ」
「いやに素直に納得するのねぇ」
意外な事にプルートは簡単に納得し、しげしげと2人を見ていた。
「まぁ、そう言われてみればそういうもんなんだって思いますし。こうしてよく見ると普段のホリーより色気があり過ぎるし………」
「………何ですか?」
ふんにゃりほわわーんな見た目であるにも関わらずホリーの眼光はスナイパーのように鋭い。
誰にも知られていないが彼女は少し童顔である事を気にしていたりするのだ。



「まぁまぁホリーさん、落ち着いて。プルートくん、からかってごめんなさいね?お詫びといっては何だけど、ホリーさん……っていっても見た目はシイラだけど……彼女と一緒にお買い物を楽しむ権をプレゼントしちゃうわ」
「ホリーと一緒にお買いもの権??」
……って、それってばいわゆるデートじゃない?2人で手を繋いでお店まわって「これ、2人でお揃いにしよ?」とかいってアクセサリー買っちゃったりして?喉が渇いたねーってコップは1つストロー2本で一緒にジュース飲んじゃったりして?



「………何を想像しているんでしょうね」
「きっと、嬉し恥ずかしの大河ロマンよ」
嬉しいのだか何だかよく分からないが、赤くなって頬を押さえて恥ずかしがっている幼馴染はかなり残念な感じがした。
「ほ、ホントに、一緒に、買い物、いいの?!」
「メールディアさんは……?」
「私はいいわよぅ。ホリーさん着替え大会で楽しんでいるから」
「はぁ………それでは1時間だけですからね?ほら、時間が勿体ないから行きますよ?」
未だ照れ照れしているプルートの腕を掴み、引きずるように店を出て行った2人に手を振るとメールディアは小さく「あっ……」と呟いた。



「あの2人が歩いているところを愚弟に見られたら厄介かしら…………」



「うーん……」と小さく首を傾げたものの真剣に考えてる様子ではない。



「ま、何とかなるなる?さ〜、次は何処のお店の服を着ようかしら〜??」
数枚の服を購入し、足取り軽く店を出るメールディア。
上機嫌の彼女は普段では決してする事のない失敗をした。


「ほぇ!!ホリーしゃんだー!!」
「ルー!!走っちゃダメ!!」


「え?!」
思考が一瞬止まったところに小さな塊がメールディアに向かって飛びついてきた。
小さな塊………いわずもがなルナソル。
そしてルナソルが駆け出したスタート地点にはアースとサイが立っていた。
「(どうして気を緩めると『まさか』が発生するのかしら……)」



ホリーとプルートはファルシエールに見つからずにお買いものを楽しめるのか?
メールディアはホリーの振りをしてすっとぼけ続けるのか?


集合時間まで、残り1時間30分。




戻る



[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析