いれかわリング



ブレイズ家 庭園NO.7
メールディア、シイラ、ホリーは珍しく女性陣3人だけでお茶会をしていた。



「いれかわりんぐ?」
「面白い名前ねぇ。もしかして、これを着けた人同士が入れ替わっちゃったりするのかしら?」
メールディアはテーブルの上の玩具みたいな指輪を摘まみしげしげと眺めた。
「はい、冗談みたいですがそのような事が起きます」
「へぇぇ、スゴイねぇ!だったらさ、私とメーデが入れ替わったら、私も風属性魔法が使えたり超強くなれたりするの??」
「不可能ではないと思いますが、使い方が分からなければ使えません」
「???」
今の分かった?という顔でシイラが見つめると、メールディアは少し言葉を考えながら答えた。



「そうねぇ。能力とか特技って多くの場合は最初から身についているものじゃないでしょう?経験を積む事によって少しずつ自分のものになっていくわよね?だから、肉体と精神の経験値が合わなければ本来の力は発揮できないのよ………あ、サイは例外ね、例外」
確かに、と2人が頷く。
彼ならばどんな能力を持った身体に入っても何とかしてしまいそうだ。



「そっかぁ。でも、これって何のために作ったのかな?イタズラアイテム??」
「いえ……元々は研究院の院長が『会議マジ面倒くせー。研究の続きしてぇから誰でもいいから代わりに行っとけや』といって作ったものなのです」
「あー、あの院長さんかぁ。面白い人だよね。会うと毎回違う飴くれるんだよね」
「ええ、不思議ですよね。今年に入ってから同じ飴を1度も貰っていないってどういう事なんでしょうか」
「お気に入りの子に好かれるのに必死ね…」と心の中で思いながらメールディアは微笑んで言った。
「自分の利益になる物とか自分の興味ある物に対してだけは天才的ですものね、あの人。ちょっと「アリエネー」って思ってしまう物でも本当に作ってしまうから、これもきっとそうなんでしょう」
仮にも院長に対して遠慮の無さ過ぎる物言いだ。
この場の者は誰も何とも思っていないようだが。



「すごいんだかそうじゃないんだかよく分からないけど、ちょっと試してみたい気もするね。1つしかないのが残念」
サラリと結構ヒドイ事を言ったのは聞かなかった事にして、ホリーは手元のカバンからジャラジャラとかなりの数の指輪を取り出した。
「これ……」
「『真面目に仕事ばっかしてねーでコレで遊んでみたらどーだ?』と言われて渡されたんです。明らかに作り過ぎたのを消費しようとしてますね。こんなにいらないのに…というか寧ろいらないのに」
「可愛がられているのね、ホリーさん」
「全っ然です。からかわれているとしか思えません」
直球の好意すら気付かないホリーが、分かりづらい好意を気付くはずがない。
とりあえず「いつも飴をくれる何かちょっと変わった人(あ、院長でしたね)」止まりだろう。
哀れ過ぎる。



「まぁまぁ、落ち着いて。話を戻すけど、これって既に効果とか安全性とかは証明されてるんだよね、念のため」
「はい、それは勿論です。これを使って今年の会議を半分以上サボってるようですから」
「その事は他の院長とかエライさんにバレていないの?」
「どうなんでしょう?恥ずかしながらうちの院長はどの会議に出ても居るだけな感じですから。見た目が院長であれば誰が来ていても文句は出ないのではないでしょうか」
雰囲気に流されたのかホリーの言葉も容赦がない。



「うーん……入れ替わってるのがどの程度の人にバレちゃうのかハッキリしてないって事なんだねぇ」
「そうですね。……って、シイラさん、何で残念そうなんですか?!」
「え?えへへっ★私が居ない所での夫の仕事っぷりを見てみたいカナ?とか思っちゃったりして」
現場での仕事が多いシイラだが、魔道院へ書類を届けに行く事もある。
その頻度は月に1度あるかないか程度で不定期なのにも関わらず、ファルシエールは目ざとくシイラを発見し執務室に連れ込みお茶の時間を楽しむ。
………という事で、彼女の愛する旦那様は家でも仕事場でも同じような姿しか見せてくれないのだ。



「書類読んで分類してサインして、後はたまーにお客様対応してるだけよ?見てもつまらないと思うけど」
「メーデはいつも一緒に仕事してるからだよー」
民から「慈愛の聖女」と尊敬されているシイラだが、付き合いの長いメールディアの前では子供っぽい態度がつい出てしまう。
ぷくっと頬を膨らませた顔がルナソルに被って見え、メールディアは思わず笑った。
「そうねぇ………じゃあ、試してみちゃいましょうか。ホリーさん、使い方を教えてくれる?」
「は………はい?試すつもりなんですか??」
「えぇ、折角私達3人共非番なんですもの。ちょっと遊んでみましょうよ」
「3人共って……私も数に入っているんですね……」
力なく笑うホリーの肩に手を乗せメールディアは微笑んで言った。
「だって、ホリーさんも少しは興味があるからこれを私達に見せてくれたんでしょう?」







「使い方は簡単です。指輪の石の部分に血液を1滴垂らして入れ替わりたい人と指輪を交換して下さい。それをお互い左手の真ん中の指にはめればいいようです。元に戻るにはそれぞれの石の部分に傷を付ければいいとの事です。先ほどどの程度の力で石が傷付くのか念のため試してみましたら、ナイフの先端で比較的簡単にひびが入りました」
流石ホリー、ぬかりがない。
「血が必要なのかぁ……」
「見えないように私がやってあげる。手を貸して頂戴」
シイラは治療魔法のエキスパートだが血を見るのが苦手だ。
人に治療をする時は何とか我慢できるのだが、自分に対しては滅法弱い。
それを知っているメールディアは手早くシイラの指先に針を刺し作業を済ませると、その痕跡が分からないように治療魔法をかけ指輪をシイラに渡した。



「ありがとう……」
「いいえ、気にしないで。さぁさぁ、交換しましょ!私の指輪はホリーさんに渡せばいいのね?」
「お預かりします。私の指輪はシイラさんにお渡しします」
「えーと、私のはメーデだよね!」
プレゼント交換会のようにグルっとそれぞれの指輪が違う人へと渡った。
「ではでは、いつもと違った風景を楽しんできましょ♪」
左手の中指に指輪がはまると、3人に強い眠気が襲った。
そして………







「すっごいすっごいすっごーい!ホントにメーデになってるー!!」
庭園内の池に現在の姿を映してみた外見メールディア中身シイラ(以下シイラ)は感嘆の声を上げた。
「いいっ……いいわっ!!この女の子らしい視線の高さ。もう……あれやこれや可愛いお洋服を着てみたい……っていうか着るっ!!」
外見ホリー中身メールディア(以下メールディア)は自分の妄想に頬を桃色に染め楽しそうに笑った。
「え、あの、何故そんなに楽しそうなんですかメールディアさん……」
外見シイラ中身ホリー(以下ホリー)は自分の姿でウキウキしているメールディアに何だか嫌な予感がした。



「じゃあじゃあ、魔道院に行ってくるね!」
「あ、待って、私……じゃなくてシイラ。元に戻る時間を決めましょう。午後5時にもう1度此処へ集合でどうかしら?」
「おっけー♪」
「分かりました」
現在時刻は午後2時。
3時間程度なら何の事件も起きないはず。



「じゃあじゃあ改めて、魔道院に行ってくるね!!」
じゃーん!と取り出した転移魔法石を高々と掲げ、シイラは張り切って転移魔法を発動した。
「あ………」
「どうしたんですか?」
「いえ……あまり張り切ると到着の時に反動がつき過ぎてしまうんじゃないかと思って。今は私の身体だから風の属性には強く反応するから」
「それは………」
「でも、もう行ってしまったものね。大丈夫大丈夫。私も比較的身体は丈夫に出来ているから!」
「えぇ〜〜!?」



集合時間まで、残り3時間。




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